世界的企業IBMが日本を舞台にした節税である。米国IBMの100%子会社、有限会社IBM・APホールディングス、またその100%子会社である日本IBMが親会社IBM・APホールディングスから自社株を購入、つまり自社株買い、金庫株といわれる取引を行った。その結果、IBM・APホールディングス社が5000億円の損失を出した。当然、日本IBMの親会社IBM・APホールディングス社は何ら実態のないペーパーカンパニーなので、5000億円の損失は繰越欠損金として放置されるはずだったが、100%資本関係にあるグループ会社間は「連結納税」ができる。株式を売ったIBM・APホールディングス社とその株式を買った日本IBMは連結納税できるので、その5000億円の損失をまんまと日本IBMは取り込んだのだ。したがって黒字企業の日本IBMは当分、税金を納めることがなくなった。
これにカチンときた東京国税局は2010年、この経理処理を否認した。否認の根拠は法人税法132条。これは「同族会社の行為・計算の否認」というもので、普通、一般だったらあり得ない取引で、同族関係(つまりIBM関係会社だけの身内の関係)だから可能な取引のため否認したのである。
しかし、これを不服としてIBMは裁判に持ち込み、このほど異例の早さで、最高裁で決着した。IBMの勝訴、国の敗訴である。国は、株式の取引価額が異常でそんな価額では一般取引では考えられないと主張したが、それではいくらなら通常の取引として妥当かということ。妥当な価額をついに最後まで出さなかった。敗訴して当たり前である。ずさんな国側の否認であった。
この複雑な一連の取引でIBMが国に勝ったが、これがもしアメリカで行われていたら、間違いなくIBMは負けたと思われる。米国IBMで考えられた一連の取引で、IBMグループ内で売買した結果、5000億円もの巨額損失を発生させた。アメリカでは実態は何ら変わらないのに結果節税につながったのはアウトなのである。これは段階取引の法理(step transaction doctrine)として課税される。子会社に金を貸す、その金でまた別の株式を買う、買った子会社はまたその株を売って損を出す。そして最後に、その損金をグループ全体で共有して税金を減らす。
このような連続した行為は、アメリカでは偽装の法理(sham transaction doctrine)と呼ばれていて、行為計算の否認となる。それではアメリカでは、段階取引の法理のいう一連の取引とはどのような場合をいうのであろうか。これには三つの基準がある。
① 拘束的約定基準(binding commitment test)
第1の取引を行えば第2の取引が行われることが契約や法令によって約束させられている
② 相互依存主義(mutual interdependence test)
一の取引によって形成された関係、一連の取引の完成がなければ無意味となる
③ 最終結果基準(end result test)
各取引段階がある特定の結果を達成するための手段として、初めから計画されたもの
日本からアメリカ路線の飛行機に乗った経験のある人にはわかるだろうが、機内アナウンスで「トイレの前などで、2,3人以上で話をするのはアメリカの法律で禁止されています」と言う。つまりハイジャックをするかどうかにかかわらず、怪しい行為そのものが罰せられる。それがアメリカである。段階取引すること自体が怪しいのである。
☆ 推薦図書 ☆
磯山友幸著 『「理」と「情」の狭間』 日経BP社 1500円+税
例の大塚家具の親子騒動。この本は初めて明かされる大塚久美子社長の本音を語るというもの。大塚家具から考えるコーポレートガバナンスとは、テレビのワイドショーを賑わした大塚家具の経営権を握る騒動で、親子の争いばかりに注目が集まったが、久美子社長が経営を委ねられた背景には女性の社会進出拡大などという時代の風があったとする。騒動のなかで久美子氏は終始一貫、大塚家具を「公器」として上場会社に相応しいコーポレートガバナンスのあり方を世間に訴えた。つまり上場会社の経営者として「理」を説き続けたのである。一方の勝久氏は、記者会見から父親の顔を全面的に持ち出した。大塚家具は自ら創業した「家業」である点を訴え、娘は自分を追い出そうとしていると人々の「情」に訴えたのである。最後は久美子氏が勝ったが、この騒動で、いったい誰が得をしたのか。勝久氏が持っていた350万株の時価総額は35億円であったが、騒動で一気に配当金が引き上げられ株価が上昇、21億円も増え56億円になり、しかも経営陣から追い出されたこともあり、堂々と売却し、その資金を元手に新会社「匠大塚」を創設。この4月にショールームをオープンできることになった。東京証券取引所は、初めからこの騒動は「出来レース」ではないかと疑っていたほどだ。しかし真相はわからない。「理」を貫いた久美子氏の経営手腕がこれから問われることになる。