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ミュージシャン・プリンスの遺産と相続

ウォール・ストリート・ジャーナルやその他のメディアによると、シンガーソングライターでシングルの総売上げ枚数が1億2000万枚以上となるプリンス(Prince,本名:Prince Rogers Nelson)が先月4月21日に死亡、その直後、妹のTyka Nelsonがプリンスの出身地ミネソタ州のCarver Countyの裁判所に、遺言書がないので遺産の一時的管理を行う管理人(Administrator)を立ててほしいと要請した。アメリカの相続手続きは日本と比べものにならないくらい複雑である。日本の場合、人が死亡すると、その人の法的相続人が瞬時に相続、後で法定相続人がその遺産の分割をするのであるが、アメリカの場合、人が亡くなると遺産財団のものになり、相続財産取得者の第一に国がなる。そのため、信託を生前に組んで(Living Trust)相続対策を行う。プリンスの場合は「信託」を組んでいないし、遺言書もない。彼ほどの人間が「信託」も「遺言」もないというのは信じられない。相続手続きが完了するのに数年は少なくともかかるだろう。

 

裁判所は遺言書がないことを確認し、プリンスが生前から公私にわたり、メインバンクとして利用していた地元の地方銀行Bremer Bankのトラスト部門Bremer Trustが遺産の管理を行うことを決定した。

 

アメリカで「信託」も「遺言書」もないとどうなるか。彼のギターやピアノを誰が相続するかということから問題が発生する。プリンスに子がいない、そして両親も既に他界しているということから、彼の兄弟が相続することになるが、日本と違い、アメリカには戸籍制度がない。Tyka Nelsonは実の妹で、伝え聞くところによれば、他に腹違いの妹が2人、弟が4人いる。その他、これから兄弟だと名乗り出てくる者が少なからずいる可能性が高い。このような事からアメリカには相続人を探すビジネスがあり、Heir Hunters Internationalによると、もう既にプリンスの子だと称する人からコンタクトがあり、その内2人はその確率がかなり高く、DNA検査を用意しているという。

 

アメリカの相続税での問題で、プリンスの肖像権などの評価をどうするかである。マイケル・ジャクソンの例だと、マイケル・ジャクソン遺産財団が所有する肖像権はスキャンダルもあり人気が落ちたため、遺産財団側はたったの2105ドル(23万円)と申告したのに対し、IRS(アメリカ国税庁)は4億3400万ドル(500億円)だとし、大きく違ったために、アメリカ税務裁判所(Tax Court)で係争中(日本の裁判官は税金の知識がないのだから、アメリカのように税務問題を専門に扱う裁判所が必要だと思う)。その他の遺産にしてもマイケル側が700万ドル(8億円)だと申告しているのに、IRSは10億ドル(1100億円)だとしている。日本では考えられないが、アメリカの相続税評価の難しさを語っている。日本の相続税評価は財産評価基本通達という国にとって便利なものがあるが、欧米にはまったくない。

 

プリンスのケースでも難しいのは、潜在的な利益の累積的な価値をどう見るか。彼は57歳で亡くなっているので、彼のファンは今後何十年もプリンスの音楽を購入し続けるという点の評価額は高くなる(日本の財産評価基本通達にはない)。日本の国税局では次の件も何ら規定がないが、IRSが大きく重視しているのは、彼の銀行の貸金庫に未発表の楽曲がどれだけあるかである。現在Bremer Trustは貸金庫を開け、その中味を整理し始めたと言っている。ニューヨークタイムズなどは、マイケル・ジャクソンやエルビス・プレスリーなども未発表曲を残して死んだが、プリンスの場合はまったく規模が異なるとしている。生前にプリンスが元マネージャーに語った話では、未発表の楽曲は毎年新しいアルバムを1枚ずつ出していっても今世紀終わりまでかかると言っていたそうだ。マイケル・ジャクソンの場合にも未発表の楽曲が数多くあったが、彼の音声がレコーディングされていないので、価値はなかったようだ。

 

いずれにしても、納税者側の相続財産価額とIRSのいう相続財産価額はそれこそ天と地ほどかけ離れている。土地の価額は路線価、建物の価額は固定資産税評価額によると、「お上」が決めた評価によらないといけない日本と、そうでないアメリカ。税に関しては、日本はまだまだ明治時代でアメリカの相続税制度は理解できないであろう。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
下重暁子著 『家族という病』 幻冬舎新書 780円+税
家族というものは、お互い何もわかっていない。一家団欒という言葉に憧れ、家族はそうあらねばならないと考える日本人。家族とはそんなに素晴らしいものなのか。現実には、親が子を、子が親を殺すということが日常の新聞に載る。家族がらみの事件やトラブルを挙げればきりがない。
なぜ、家族は日本では美化されるのか。家族という幻想に取りつかれ、口を開けば家族の話しかしない人もある。そんな人たちを著者は「家族のことしか話題がない人はつまらない」「家族写真入りの年賀状は幸せの押し売り」と一刀両断。
同じ家で、長年一緒に暮らしたからといって、いったい家族の何がわかるのだろうか。いじめや家庭内暴力などが報道されると、もっと親子が日頃から話し合っていればとか言うが、土台無理である。
著者にとって家族とは何だったのか、家族を十把一絡げにするとわからない。しかし、一人ひとり切り離して、父・母・兄と個人として見ることで彼らとの関連を語ることができる。夫婦でも理解しあえることは難しい。家族を盲信する日本人への警鐘の本である。

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