このほどアメリカ議会上院は、アップルCEOのクックを議会に呼び、アメリカでの租税回避を追求した。ニューヨークタイムズなどによると、アップルは法人税率が35%と高いアメリカに利益を落とさず、法人税が1~2%というアイルランドの100%子会社に多額の利益を付け替えているという指摘である。おもしろいのは、IRS(国税庁)ではなく議会が脱税を追求するということである。クックCEOは、アップルの昨年度は60億ドル(約6000億円)もの税金をIRSに支払っていると主張し譲らなかったが、アップルの預金総額の70%は米国外に保有している事実を認めた。しかし今さらこの預金を米国に戻すのには米国の税制が複雑すぎて無理だとクックCEOは言うが、そうでもあるまい。
どのようにしてアップルが巨額の資金をアイルランドに集めたのか。仕組みはこうである。まず、100%子会社をアイルランドに作る。この子会社がアップル製品の卸元となってアップル製品を全世界に売る。アメリカや日本にあるアップルやアップル子会社は、ただ販売を仲介、代理するだけで、実際の販売はアイルランド子会社が行うのである。そうすればアイルランド子会社に売上に伴う利益が集中する。もちろん、アメリカとアイルランド間の取引で移転価格を巧みに調整しながらであるが、ニューヨークタイムズによると、3年間で740億ドル(7兆4000億円)の利益をアイルランド子会社が稼いだというわけだ。
議会に呼ばれたアップルだけではない。グーグルもアイルランド子会社を利用しているし、アマゾン・ドット・コムはルクセンブルク子会社に利益を落としている。最近では、話題になったのはスターバックスである。イギリスに進出したスタバがイギリスに利益を落とさず、スイスやオランダの子会社に多額の利益を付け替えたとして叩かれた。
しかし考えるに、アップルはIRSに呼ばれたわけではない。合法なのである。わざわざ税率の高いアメリカ(日本より低いが)の本社に利益を落とさず、1%の国に落とせばキャッシュフローはそれこそ天と地ほど違う。アメリカのアップル株主は喜ぶに違いない。フィナンシャルタイムズによると、アップルが違法な取引をした証拠がない。それよりもアップルのような行為を禁じたければ、それを許す税法の抜け道を防ぐ法律を作るべきだと言っている。
まさにそうである。アメリカ政府は富裕層に対しての所得税率は10数パーセント、中間層は30数パーセントのように、巨大多国籍企業の税にはあまりにも抜け道は多い。二重課税防止のため各国には租税条約があるが、アメリカでは二重ゼロ課税がまかり通っている。米政府高官が巨大企業の経営陣から来たり、行ったりの国である。アメリカ議会は重税感を持つ中低所得者層アメリカ人のガス抜きに使ったのであろう。
日本の多国籍企業はどうであろう。実効税率が40%と高い国だが、それは海外展開していない中小企業の話であって、三井物産など世界を股にかけている企業の連結決算の利益から日本に落としている税金は10数パーセント、20%はいかない。アメリカだけではない。これを問題にして一度、日本の国会も参考人招致ぐらいはしてもいいかもしれないが、自民党はおろか連合も賛成しないだろう。
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萩原一平著 『脳科学がビジネスを変える』 日本経済新聞出版社 2,100円
脳の研究は最近進化してきている。人間は日常ほとんどの行為を無意識に行っていて、0.5秒前に脳は意思決定をするという。ビジネスにおいて脳を考えるとき、人種によって脳が異なることに留意すべきである。日本人は欧米人に比べて不安傾向が強く包括的である。母国語以外を共通語にする場合、気をつけなくてはいけない。例えば、香港チャイニーズはバイリンガルだが、彼らに英語で質問するのと中国語でするのとは、同じ質問でも答えが異なるという。使用する言語が変わると考え方も異なるのだという。英語を会社の公用語にするところが増えているが・・・