東京高裁は、海外に住民票を移した納税者への「公示通達」による督促を無効と判断し、差押処分を取消す決定をした。この督促は「居所が明らかでない場合」の要件を欠いた無効なものとした。
「公示通達」なる単語を理解し得ない人がかなりいると聞いているので少し解説をする。
自分の意思表示を相手方に到達させたいが、相手方の住所がわからないために意思表示を到達させることができない場合に、その意思表示を到達させるための手続であるのが「公示通達」である。但し、相手方の所在が判明していて、相手方が郵便物を受領しない場合には、この「公示通達」を利用することはできない。「公示通達」をすると、簡易裁判所の掲示板へ掲示され、併せて区役所掲示板にその旨掲示され、区役所の掲示から2週間経過したときに「公示通達」の効力が生じるというもの。
今回の事件は、海外に住民票を移した納税者に対して東京都は滞納税の取立てを「公示通達」し、その者の国内の預金口座の差押えを行った。東京地裁では、「公示通達」を行う前に納税者が主張する方法(転出届に記載された携帯電話番号への電話)などによる調査を行うことは通常必要とされる調査であったとまで認められない等とし、督促状の送付及び財産差押えは適法だとした。
東京高裁では地裁判決を覆し、督促状などは「公示通達」の要件を欠く無効なものであるとし、預金の差押処分を取消した。高裁の判決の注目点は、東京都が納税者の日本国内の旧住所地宛に送付した納税通知書が返送されなかったにもかかわらず、その1か月半後に、督促状を旧住所に送付することなく「公示通達」を行った点である。高裁は、海外への転出直前の住所地に発送した書類が返送されなかった場合には、転出直前の住所地が海外への転出届出を提出した者の居所であり、書類が居所に送達されたと認めることができるという判断をした。
また、納税者の旧住所地宛に送付した納税通知書は返送されることがなかったことから、東京都は旧住所地が納税者の居所であることを認識できたはずであり、納税通知書の発想から1か月半後に、旧住所地宛に督促状を発送し返送がされないかを確認することなく、納税者の居所が明らかでなくなったと判断したのは誤りである。したがって、東京都が行った「公示通達」による本件督促は「居所などが明らかでない場合」の要件を欠いた無効なものであるから、本件督促を前提とする差押処分は違法であると判断したとしている。たぶん最高裁に上告しても門前払いであろう。
しかし、この高裁の判断は重要である。今後、海外脱出組は後を絶たない。特に超富裕層の海外転出者が多い。海外脱出組も、脱出直前の住民票があった所に郵便物が届くようにしておけば、「居所などが明らかでない場合」に該当せず、知らない間に財産が差押えられたり、処分されないことになった。しかし、税務当局は海外に既に居住する者に、今後どうやって連絡をつけるのだろうか?
☆ 推薦図書 ☆
三品和広+センサー研究会著 『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法』 東洋経済新報社 2000円+税
1980年代にはメイドインジャパンの製品は世界中で売れに売れた。しかし、その後、ソニーのエレクトロニクスはアップルに、NECの半導体はインテルに取って代わられた。その原因は20世紀と21世紀の境目で、アメリカが「規模の経済」から「ネットワークの経済」に移したからに他ならない。
インターネットはアメリカが何十年もの時間をかけ徐々に築き上げた通信基盤である。その起源は1969年、高等研究計画局(ARPA)、全米4か所のコンピューターを結んだネットワークとしてスタートした。そして1990年代初め、後に副大統領になったアル・ゴアが「情報スーパーハイウェイ」を唱え、この軍事・学術用ネットワークが一般に開放され、それがインターネットとなった。そして2000年頃から爆発的に普及、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどを生んだ。日本がモノ造り大国への道を歩んでいたのと反対に、歴史は方向転換し始めていた。
日本の活路は、インターネットの欠陥を突くことである。つまり、センサーを使って個人を識別しない第二のネットワークを築く。プライバシーから完全に切り離したセンサーネットは、例えば、夜誰もいない歩道を照らし続ける街灯も、センサーを活用すれば歩行者を感知して点灯することができる、「無駄をなくす」ということに役立てることができるなど、サービス価値を高める方策は幾何級数的に増えるとしている。