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相続税の歴史、日本とアメリカ~その2~

今年、アメリカで相続税が誕生してから、ちょうど100年になる。古代エジプトやローマ帝国で相続税があったことから、古い古い税であることは間違いない。日本では2015年から基礎控除が数千万円になり、最高税率も55%になった。統計数値はまだ出ていないが多分、亡くなった人7万人に相続税が課せられたようだ。アメリカの相続税は1797年の紛争時、南北戦争時、スペインとの戦争時には臨時に戦費を賄うため相続税を課していた。

 

正式に相続税が立法化したのは1916年(大正5年)、アメリカの相続税は今も続いている。ただし、相続税収入は、ほとんどアメリカの国家財政に寄与していない。議会のJoint Committee on Taxationによると、相続税・贈与税収入は1950年から2014年のアメリカ連邦収入のうち毎年平均1.4%しか寄与していないということで、法人税の44%に比べれば取るに足りない税収である(日本では4~5%になるが)。さらに、アメリカでは相続税のことを“ Voluntary Tax ”と呼ぶ。それは、故人が所得税等を納めた後の財産に更に税金をかけるというもので理屈に合わないとしている。

 

また、相続税対策として生前贈与があるが、年間1万4000ドル(160万円)までの贈与税非課税枠がある。アメリカでは贈与税は贈与した方が払うので、両親がいれば倍の2万8000ドル(320万円)まで非課税枠が拡がる。したがって富裕者の場合、たくさんの子や孫がいる者は、非課税枠を活用して何千万円程度の生前贈与ができる。さらに日本みたいに非上場株式や医療法人の承継に多額の相続税をかけたり、不動産の評価に路線価を用いたりしないため相続税対策そのものが活発ではない。

 

しかし、相続税に関してはアメリカでは日本にない哲学がある。鉄鋼王と呼ばれ、ジョン・ロックフェラーに次ぎアメリカ史上第二番目の長者とされるアンドリュー・カーネギー氏は、富裕層はその富を持って善を行うべきであるとし、相続税の税率を50%とすべし、なお「金持ちのまま死ぬのは不名誉な死である(Man who dies thus rich dies disgraced.)」とまで言った。

 

セオドア・ルーズベルトもフランクリン・ルーズベルト両大統領とも、富の再分配が必要だということから、相続税には賛成だとしていた。もっとも、同じ民主党でルイジアナ州の上院議員でもあるヒューイ・ロング議員は、800万ドル(9億円)以上の遺産があれば、それを超える財産は国が没収すればよいなどと訴えた。

 

しかし、相続税課税反対派で、かつて財務長官であったアンドリュー・メロンは1920年代に相続税支払いのため、市場より低い価格で遺産を売却せざるを得ず、それが国家経済に損害を与えるとして、相続税を廃止するように訴えたが、それはならなかった。しかし税率を低くすることができた。彼の死後、彼の所有していた美術品と1000万ドル(11億円)をワシントンにあるNational Gallery of Artsに寄付している。

 

その数十年後、相続税に批判的な人たちはメロンの主張を利用し、相続税反対の民意を勝ち取り、1997年から2009年までの間に基礎控除は6倍にもなり、2010年には相続税は一旦なくなった(ブッシュの公約でもあった)。オバマ大統領が相続税を復活したものの基礎控除は500万ドル(6億円)となり、夫婦の場合1000万ドル(12億円)で、現在は545万ドル〈物価上昇率にスライド〉となっていて、Tax Policy Centerによれば、アメリカで相続税課税対象者は年間4400人しかいないとしている。人口が3億5000万人の国で、富裕者は日本の何倍もいる国で、この現状である。たった年間数千人が課税対象の税が存在するのもおかしいとしている。

 

今回の大統領選でトランプが勝てば相続税は廃止、ヒラリーが勝っても相続税増税はなし。先進国で日本だけが、この「ねたみ税」と言われる相続税の増税に取り組む。これでは世界の富裕層は誰一人として日本に住もうとは思わないであろう。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
内館牧子著 『終わった人』 講談社 1,600円+税
この著は小説ではるが、ビジネス書でもある。全てのサラリーマン、老いも若きも必読書である。
主人公は63歳の男。東京大学法学部卒、超一流銀行に就職し、同期200名もいたが一番出世で銀行の企画部副部長に就く。49歳のときであるが、出世を争っていた者が役員に就任すると同時に子会社へ出向を命じられる。僅か社員30名の会社だ。そこで定年の63歳になり退職する。まだ体力もあり気力もあるが、仕事はない。辞めると中元、歳暮は全くなくなる。いろいろな委員や理事も辞職を迫られる。そのとき気づいたのが、自分を誰も頼っているのではなく、今までの自分の肩書を頼っていたのだと。定年を迎え、誰も寄りつかず、自分の趣味でしか生きられない人々を「終わった人」という。
強がりを見せても、所詮「終わった人」には誰も近づかない。この本では、最後には家族にも見放される。権力、地位、金があっての男の価値というのを内館牧子は見事に書いている。

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