このほど、日米租税条約の改定議定書に日米両国政府の代表が署名した。この内容については、日本で全く報道がなかったが、海外を利用する富裕層にとっては大きな痛手だ。日米租税条約上、アメリカでの日本居住者のキャピタルゲイン課税については、現行以下のとおりである。
(1)アメリカ国内の株式の譲渡益については、アメリカでの課税は行われず、日本で課税する。
(2)アメリカ国内の不動産の譲渡益については、アメリカで課税する。
(2)の不動産譲渡益については、たとえ日本居住者であってもアメリカのIRSが課税するのは当然としても、(1)のアメリカの会社の株式をアメリカで売却してもアメリカでは課税が行なわれず、日本のみで課税が行なわれるという特典は、アメリカの「外国人不動産投資税法(Foreign Investment in Real Property Tax Act of 1980 = FIRTA)」の中に書いているが、今回の改正においては、かなりの部分で変更された。
日本では株式譲渡益課税は、上場会社株式は10%、その他は20%の分離課税になっていて、最高で50%の所得税等の課税に比べてかなりの低税率である。そこで日本人富裕層はアメリカでの不動産投資について、個人で直接不動産を買わずに、とりあえずアメリカ法人を設立して、アメリカ法人が不動産を買う。値上りしたとき、不動産を売却するのではなく、その不動産を所有するアメリカ法人の株式を売却する。そうすれば不動産を直接個人が売却するのではないから、アメリカの所得税はかからない。日本でのアメリカ法人株の株式譲渡益課税のみである。したがって日本では税金がかかっても最高20%の分離課税のみである。
今回の日米租税条約改定議定書は、こうした租税回避を防ぐため「その会社が有するアメリカの不動産の価額がその会社の総資産の50%以上を占めている法人の株式を売却した場合は株式譲渡として扱わず不動産譲渡として取り扱う」というもの。したがって、アメリカ法人が所有するアメリカ不動産を売却せず、アメリカ法人の株式を売却してアメリカ不動産を移転する方法をとったとしても、その株式の売却は株式譲渡とはならずに、不動産譲渡としてアメリカで課税される。このように、今まで、知る人ぞ知る、日本居住者(富裕層であるが)が享受してきた特例がなくなると共に、日米間のM&Aの課税関係にも大きく影響すると考えられる。
しかし、日本人のことである。設立したアメリカ法人の資産の半分以上が不動産という事態を避けるための方策を考えるであろう。既に動き出している。
☆ 推薦図書 ☆
細谷功著 『会社の老化は止められない』 亜紀書房 1,575円
「人間の老人には不老不死を信じて生きながらえようとしている人はいないのに、会社に関しては不老不死をほとんどの人々が暗黙のうちに信じている」
しかし、会社も生まれた瞬間から老化が始まる。実は会社の経営は老化との戦いということができる。
老化が進むと思考停止現象が多くなる。思考停止になると、自分を客観的に見られなくなる。そうなると会社に不具合が生じても「私は悪くない」と考える他責社員となる。会社は立ち上げ期から成長期を経て、成熟期そして衰退期となるが、アンチエイジングはできても根本から若返ることはできない。
カリスマリーダーの出現か、あるいは社員の方向性を統一させることによってしか老化はくい止められないとする。