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トランプ大統領の税制と日本の税制

トランプは大統領選の勝利宣言でこう言った。“Thank you very much, everyone. Sorry to keep you waiting. Complicated business. Complicated. Thank you very much”(お待たせして申し訳なかった。忙しくって)。そして着々と組閣が進んでいるのと並行に、アメリカ最大の歳入である税制について準備が整っているようだ。次期財務長官Steven Mnuchinは“Rich us taxpayers won’t get ‘an absolute tax cut’ under President–elect Donald Trump”と言っているが、現実にはトランプが提唱している税制になっていない。アメリカ市民は皆さん減税にはなるにはなるが、富裕層の減税が群を抜いて大きい。特に年間70万ドル(8,000万円)を超える富裕層(アメリカ国民の1%)は110万人おり(日本では数千人)、富裕層の納税額は現在オバマ政権下では全連邦所得税納税額の28.7%を占めているが、これが25%まで減少する。

 

Mnuchinは富裕層に対するトップの税率も低くなるが、住宅ローン減税、慈善事業寄附金控除、州税に対する控除を夫婦合算で20万ドル(2,300万円)を上限にすることで、富裕層の減税分がかなり抑えられると言っているが、それはないと思われる。所得70万ドル(8,000万円)を超えるトップ1%の富裕層の減税額は21万5,000ドル(2,500万円)にもなる。(日本の財務省の発想では考えられないが)

 

一方、年所得14万3,100ドル(1,650万円)から69万9,000ドル(8,000万円)の層の減税額は6,830ドル(82万円)しかない。この層の連邦納税額の全体に占める割合は39.4%から41.2%に増加する。つまり、中途半端な中間所得層がトランプの減税恩恵にあずかることができないのだ。アメリカでは年所得1億円以下というのは富裕層の定義の中に引っかからないのだ。そして年所得24万8,000ドル(2,700万円)以下の所得層の減税額は、たったの110ドル(1万2,000円)。

 

Tax Policy Centerの発表によると、トランプの減税プランで恩恵を受ける者の半分はトップ1%の富裕層だとしている。さらには、富裕層の多くにキャピタル・ゲインがある。この税率はいくら儲かっても現行23.8%で、キャピタル・ゲインの78%はトップ1%の富裕層が利用しているという。

 

次に相続税・贈与税。ウォールストリートジャーナルによると、2016年で相続税法施行100周年を迎えたが、101年目を迎えることはないと報道している。アメリカの相続税法はそもそも、1916年の第1次世界大戦の戦費を賄う理由で立法化されたが、最近は富裕層の富の蓄積を制限するような目的に変わってしまった、としている。日本の相続税は日露戦争の戦費を賄うために創設されたが、いまや完全に目的外である。

 

トランプも共和党も相続税の廃止をうたっており、上院も下院も共和党が過半数を占めているので、相続税がなくなるのは決定的である。相続税は2016年現在、基礎控除545万ドル(6億円)、夫婦合算だと1,090万ドル(12億円)まで課税されないばかりか、日本では考えられない節税商品が数多ある。そのため2011年以降、基礎控除が500万ドルを超えてから相続税を納める人が激減し、Tax Policy Centerでは、このまま行くと2017年に相続税を払う被相続人は年間5,200人(日本では8万人強)で死亡者の0.2%(日本では7%)となると予測している。アメリカも1976年当時は基礎控除6万ドル、死亡者の7.6%が相続税を払っていた(今の日本とほぼ同じ)頃と比べると隔世の感がある。

 

これは、アメリカでは富裕層があってのアメリカの経済力があるとの考えから、富裕層にフレンドリーであるが、仮にこのような富裕層への減税を安倍首相が行えば、「金持ち優遇税制」としてデモが行われるかもしれない。

 

追記:
12月は太平洋上を6回も飛んだ。また、税制改正により、正月明けに2冊の単行本の執筆依頼があり、多忙をさらに極めるため、読書の時間もなく、年末年始2回ブログを休止したい。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
アランナ・コリン著 『あなたの体は9割が細菌』 河出書房新社 2,000円+税
著者はインペリアル・カレッジ・ロンドンで生物学の修士号をとった後、ロンドン動物学協会で博士号を取得した。この本は肥満も、アレルギーも、うつ病も、微生物の問題であると、なんと人の腸内には100兆個の微生物がいるという。そして、その腸内の微生物の生態系が豊かに広がっていて、人の健康を維持しているのである。しかし現在、その生態系が破壊され、それが原因でさまざまな問題を引き起こしている。人はその生態系を大切にしているだろうか。むしろ、知らぬ間に生態系を破壊しているのではないだろうか。人の体のうち、ヒトの部分は10%しかない。自分の体と言っている容器を構成している細胞1個につき、そこに乗っかっているヒッチハイカーの細胞は9個ある。あなたという存在には、血と肉と筋肉と骨、脳と皮膚だけでなく、細菌と菌類が含まれている。あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものであるのだという。最新の科学的知見をもとに、微生物生態系のしくみと健康との関係を解き明かしつつ、大切な微生物たちを守り、育む方策を示すという著である。

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