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IRSの自動通知システム

ブルーンバーグによるとIRS(アメリカ国税庁)の経費削減により、税務調査(Tax Audit)の件数は減少している。そうなると追徴税額も減少する。そこで効率よく追徴税を取るのにはどうしたらよいかとIRSは考えた。結論は明らかである。富裕層に的を絞ることで1件当たりの税額は大きくなる。当たり前のことだ。

 

そしてアメリカのIRSは自動通知システムを開発し、申告所得から控除(Deduction)できる寄附金控除額、雑損失額、住宅ローン控除額(日本のような制限はない)、教育資金控除(この控除は日本にはない)などの額が、一定額以上になった者に対してオートマティックに、その証拠書類をIRSへ提出せよというもの。

 

次に、これは日本でも応用できるのではないかと思われるが、“Hobby Loss”と呼ばれているもので、初めから利益が出ないとわかっているものに投資する。ベンチャービジネスへの投資は、アメリカでは損金になる。例えば、音楽グループ活動、馬の調教、カーレース、ヨットレース、犬のグルーミング(これらは全て日本にはない制度)などがある。

 

IRSから「自動通知システム」で本人に送られてくる書類は“Audit Lite”と呼ばれていて、本格的な税務調査の前段階ととらえられており、回答期限に遅れたり、回答内容に疑義が生じた場合には、ただちに税務調査に入るというもの。数年前にIRSは富裕層向けに“Wealth Squad”専門部(日本もこれに倣っている)を設けた。これ以前はGlobal High Wealth Industry Groupと呼ばれ、超富裕層向けに訓練を受けた税務調査隊を組織し、単なる1040の申告書をチェックするだけでなく、その富裕者の会社や投資先まで、どのように調査すべきかの訓練を受けている。IRSは人員減に悩みながらも、この数年はスイスにある銀行口座の開示を強制的に行わせ、タックスヘイブンなどにあるアメリカ人口座の実態を解明している。

 

IRSは経費削減のおり、大規模な会社や、それらを所有する富裕層をターゲットとする戦略にシフトしている。IRSのWealth Squadを含むThe Large Business and International Divisionは、今年1月に大々的に超富裕層に対しての税務調査を大掛かりに行うと発表した。この範ちゅうにEnergy Tax Creditに関わるものもあれば、海外に置いてある資金をアメリカに還流させる者、更にBasket Optionsを利用した節税スキームもある。

 

このIRSの戦略がどこまで通用するのかわからないが、アメリカで個人の確定申告をするもの(夫婦合算も含めて)は1億4700万件ある。しかし、その申告に対して税務調査を行ったのは、僅か0.7%しかない。トランプ大統領は抜本的な税制改正とIRSの増員をうたっているが、皮肉にも共和党は賛成していない。日本と違い、ねたみ社会ではないアメリカでは富裕層いじめは国民の賛同を得られないからである。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
安達誠司著 『ザ・トランポノミクス』 朝日新聞出版 1,500円+税
日本はアメリカ復活の波に乗れるか、という副題があり、トランプ旋風が世界を席巻しているが、当初は泡沫候補とされながら勝利した。それと同じで、イギリスの国民投票でEU離脱派が勝った。いずれも、その背景には現政府の政策に対する非エリート層(中間層)の不満があったのである。中間層の反乱はリーマンショック前までは、世界の経済は「ヒト、モノ、カネ、情報」が支配していたが、その終焉の混乱のなかでトランプが登場した。リーマンショック以後、アメリカでは特に貧富の格差が拡大している。ヒラリーは富裕層への増税で貧富の格差を縮小しようとしたが、多くの労働者が必要としたのは富裕層による「施し」ではなく、勤労機会の増大であった。したがって、雇用の創出を強く、強く主張したトランプを支持した。トランプは、中国、メキシコなどの貿易相手国に強硬な態度で臨むことだろう。アメリカ人の雇用が第一だからである。これは、日本にも影響を及ぼす可能性が高いとしている。

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