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アメリカの執拗なまでのオフショア口座解明

ブルームバーグ誌によると、2009年以降、脱税目的のために何万人ものアメリカ人(グリーンカードホルダーを含む)が隠してきた秘密口座を、IRSの呼びかけで、今、自首してきたなら刑事罰を問わないという恩赦プログラムがオバマ政権の下で行われてきた。これは言うまでもなく、スイスのUBSのアメリカ人口座の情報開示からであった。その後、IRSに対して隠してきた口座を白状する者もいれば、スイスの銀行からシンガポール、香港、あるいはその他のタックスヘイブンに資金を移動した者も多数いた。

 

IRSは後者については追及の手を緩まなく、これまでスイスの銀行80行については、アメリカによる刑事罰を免除する代わりにアメリカ人情報の提供を受けてきた。IRSはこれらの情報をもとに調査を行い、いかにしてスイスの銀行から他国へ資金を移動させ、隠蔽しているか、また、どのようなコンサルタントや仲介業者が介在しているかを調べ上げている。このような情報はIRSにとって、それこそ宝の山である。

 

もちろんスイスの銀行にあるアメリカ人口座は、ほとんどが匿名口座ではあるが、スイスの銀行は2008年から2014年にかけての各人の口座の入出金の報告、口座の開設日、閉鎖日などをIRSに報告している。アメリカの司法省とIRSはこれらの情報により、金額の大きい者からスイスの銀行から逃避したアメリカ人を追跡している。2009年のスイス政府との租税条約に基づき、関係者に対して直接問い合わせも行っている。

 

これまでに、スイスの80行が、アメリカ人の口座隠匿及び脱税を手助けしたとして13億7,000万ドル(1,500億円)もペナルティとしてアメリカ政府から課された。特に、BSI、Union Bancaire Privee UBP、Credit Agricoleの3行には、それぞれ2億1,100万ドル(240億円)、1億88万ドル(200億円)、9,900万ドル(105億円)のペナルティを支払わされた。これらの80行の米ドル資産は2008年から2013年の間に、500億ドル(5兆5,000億円)、3万5,096口座にも及んだ。アメリカ政府に従わない者は更に高くつく結果となり、Credit Swissは2014年に脱税者隠匿幇助の罪で26億ドル(3,000億円)もの支払いを命じられた。

 

アメリカ人のオフショア口座の情報は2008年にOffshore Voluntary Disclosure Programといわれる恩赦プログラムが創設されて以来、5万6,000人のアメリカ人が参加し、IRSはそこから得た情報がかなりの精度の高いものであるとしている。参加者はもちろん過去にスイスを通じての脱税犯で、参加者からIRSが得たペナルティは100億ドル(1兆1,000億円)を下らないとしている。IRSは、これらにより重要な情報があると発表しているのは、これらの脱税を指南した弁護士、会計士、コンサル会社の貴重な情報を入手したとしている。

 

アメリカ人がスイスの銀行から逃避し始めたのは、2009年に例のUBSがアメリカの刑事罰を回避するために780万ドル(8億5,000万円)を支払い、4,700口座の情報をアメリカIRSに手渡したからといわれている。この時にかなりのアメリカ人がスイスからイスラエルの銀行、カリブ海の銀行、シンガポール、香港に逃避した。アメリカ司法省とIRSの、これらの逃避者に対する追跡はますます強まり、今後、富裕層の逮捕が出てきそうである。

 

アメリカはCommon Reporting Standard (CRS共通報告基準)と呼ばれるOECD105か国での金融口座情報の自動的な情報共有には参加せず、Foreign Account Tax Compliance Act(FATCA)に従い独自の外国口座共有システムを持っている。つまり、アメリカ人やアメリカ永住者の税逃れに外国の金融機関を利用するのは徹底的に追及するが、外国人がアメリカの金融機関を活用しての税逃れに関しては情報を外国に発信しない、つまり、勝手な国ではある。今までデラウェア州だけタックスヘイブンであったが、今回新たにネバダ州が加わった。アメリカ国外の富裕層がアメリカを活用しての節税方法がますます高まってきた。強いアメリカに守られたタックスヘイブンこそアメリカにあるのだと。

 

☆ 推薦図書 ☆
藤森徹著 『あの会社はこうして潰れた』 日本経済新聞出版社 850円+税
著者は帝国データバングの元東京支社情報部長。77億円を集めた人気ファンド、創業400年の老舗菓子店、名医が経営する病院など、あの企業はなぜ破綻したのか?トップの判断ミス、無謀な投資、同族企業の事業承継失敗、不正、詐欺など、裏で起きていたことをつぶさに見て、企業の信用調査を長年行ってきた著者が明かす。すなわち、倒産の裏側にはドラマがある。しかし、今は「無倒産時代」だという。リーマン・ショック後の2009年12月に「中小企業金融円滑化法」が施行。結果、銀行からの借金返済の猶予を受けた約40万社が延命されているというのだ。
2016年の企業倒産は8,164件。またぞろ倒産ラッシュが来ないとも限らない。取引企業が倒産すると、貸倒れによる収益悪化、不良債権による連鎖倒産などダメージは大きい。倒産の予兆はどう判断するのか。構造変化に呑まれたビフテキのスエヒロ、老舗企業ゆえにたどった和菓子の駿河屋、上場会社であったにもかかわらず船賃急落のあおりをくって第一中央汽船が沈没、ベンチャー企業のヒラカワコーポレーションの過剰投資、ジュエリー三貴の破綻、白元の四代目ハーバード大卒が落ちたワナ・・・など、実名を挙げ、著者の体験が基の実録である。

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