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アメリカ・トランプ新税制の成立と、その副作用

あけましておめでとうございます。
私は年末年始で2冊の本を執筆した。今年はあと2冊。

 

年も改まって、いよいよトランプ・共和党の2018年度新税制“The Tax Cuts and Jobs Act”も大統領の署名により実現し、年末は減税を含め、大改正ということでアメリカは盛り上がった。

 

ここでアメリカの所得税について少し解説しておこう。よく日本の税率との比較がなされる。私に言わせればナンセンスなことで、所得の定義が異なるのに税率だけを論じても意味がない。所得税、法人税、相続税、贈与税しかりである。

 

今年のアメリカ所得税改正で目立つのは、住民税・固定資産税の問題である。日本では住民税(都道府県民税、市町村民税)は必要経費にならない。いくら住民税を払ったところで所得税は安くならない。アメリカでは全く異なる。住民税は必要経費として落とせるので、その分、所得税は安くなる。次に固定資産税である。高級住宅地に住んでいると固定資産税も高いが、アメリカではその固定資産税も必要経費になるので、高給サラリーマンなどは節税につながるとして、より高い住宅物件を手に入れるが、日本は全く所得税の控除要因として考慮されない。今年の自民党税制調査会によると、税制改正案資料にも、以上のことが全く記されていなく、ただ世界各国との税率の比較しか書かれていない、そしてマスコミも全く書かない、触れないである。

 

さて、海の向こうのアメリカ新税制の問題点は、この固定資産税の所得税からの控除額が1万ドル(年110万円)を上限としたことだ。高級住宅地では、ほとんどの家が1ミリオンドル(1億1000万円)以上はする。その固定資産が1万ドルしか控除できないとなると富裕層にとって痛手だ。カリフォルニア州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、コネチカット州など州税が高いところでは、その怒りの声が巷に満ち溢れてきた(日本では増税であっても富裕者はサイレンサー)。

 

2018年新税制からの適用となるので、昨年末は、ABCをはじめどこのチャンネルでも、固定資産税の前払いができるかどうかの問い合わせで市役所が追われている光景を報道していた。控除できるうちに払いたいというのは、どこの国でも同じである。

 

ブルームバーグのニュースによると、なぜこのような騒ぎになったかというと、IRSは昨年12月28日の公表で、もし2018年の固定資産税の査定(Assess)が行われているのであれば、2017年中に2018年度分の固定資産税の前払いができるとしたことである。全米でこの問題が大きくなったのはAssessの時期、つまり納税者が納税義務を負う時である。この納税義務を負う時とは、固定資産税の納税通知書が届いた時である。日本と異なり、アメリカは各州の市によって、その査定の時期が異なり、通知の方法が異なるので大きな混乱が生じた。

 

ニューヨークでは予算年度が7月1日から6月30日である。したがって、2018年の6月30日までの固定資産税が2017年に査定され納税通知が送られてくるので、2018年の前半分までの支払を2017年度分として受け入れるとしている。
ニュージャージー州では毎年10月1日現在の不動産の課税標準額を決定するとしているが、固定資産税額は1月1日にその査定額を最終的に決定するとしていて、かなり複雑過程の州だが、州知事は2018年の固定資産税が決まっているところであれば、2017年にもその支払を受け入れるとしている。

 

一方、バージニア州のアーリントンでは、2018年の固定資産税額は2018年4月に査定されるため、2017年の前払は受け入れないと声明文を出している。テキサス州でも固定資産税の査定は10月まで行われないため、前払はダメだとした。

 

ウォール・ストリートで超高級報酬を受け取る人々が多く住むコネチカット州だが、ここも大混乱。New Canaan市では、2017年7月に査定された固定資産税の後半納付分(2018年1月)を2017年12月に納付を受け入れた。一戸当たりの平均住宅価額が175万ドル(2億円)としているGreenwich市でも同様の声明を出した。しかし同州のStamford市では、IRSが2018年度納付分を控除できる保証がないと言っている。

 

我がオフィスがあるカリフォルニア州ロサンゼルスやサンフランシスコでは、2017-2018年の固定資産税の査定は2017年10月に行われ、11月と2018年2月に納付が分かれているが、2月分を2017年に納付した場合は控除できると発表している。

 

ただ、あまり控除額が多い場合には、Alternative Minimum Tax(AMT)なるものに抵触する可能性があるので要注意だ。

 

トランプの今回の税制改革だが、相続税の基礎控除の大幅拡大、パススルー課税控除、法人減税に伴い富裕層は大きな恩恵を受ける一方、低所得者には平均2000ドル(24万円)の還付があると言っているが、低所得者は還付があっても、すぐに使ってしまう。むしろ、ヘルスケアや教育へのアクセスを充実させる方がよいのではないか。オバマケアに必須とされていた税務上のペナルティがなくなり、メディケアも削除された。しかし固定資産税の損金不算入で、住宅価格の高いニューヨーク州、コネチカット州、カリフォルニア州の不動産価格も心配である。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
ニック・ボストロム著 倉骨彰訳 『スーパーインテリジェンス』 日本経済新聞社 2800円+税
人間がいつの日か、汎用知能において人間の頭脳を超越する人工知能(AI)を生み出すとき「スーパーインテリジェンス」(超越知能)となる。その時、人類の運命は、人間でない「 スーパーインテリジェンス」に依存することになるのであろうか。
仮にスーパーインテリジェンスを持つAIが出現し、世界征服を企てた場合、そのシナリオは次の4段階を経る。
①臨界前…科学者たちの研究開発によりAIが生まれる。知能向上に必要な仕事の多くは人間が担う。
②再帰的自己改良…AIのプログラム設計・改良能力が人間を上回る。知能爆発が起こり、スーパーパワーを獲得する。
③秘密活動…スーパーパワーを使って周到な計画を立て、人間に悟られぬよう、密かに世界乗っ取りの準備を進める。
④公然活動…秘密裡に行動する必要のないほどの実力を身につけ、人類全般を攻撃し排除し始める。
AIシステムは能力が弱い限り、人間に協力的な挙動を続ける。しかし、行使可能な能力が十分に獲得できたと自覚した時点で、突如として、一方的に人間に対し攻撃を仕掛け、自己の最終到達価値の判断基準に基づき、世界の最適化を自ら実行し始める。「裏切り行動への転化」が意味するところは、おとなしく従順に振る舞う素振りを見せながら力を蓄え、自身の準備が整ったところで攻撃を仕掛けるという戦略である。
AIが行使し得る戦略の全てを人間が規定するのは困難である。AIが決定的戦略的優位性を獲得すれば、いかなる方法を用いようと、システムを止めることはできない。超越AIと人類の命運を書き綴った著である。事実そうなると恐ろしいことではないか。

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