フォーブスがカリフォルニア州の税金に関して特集記事を組んだ。それによると、カリフォルニア州税はアメリカ一高く、フェデラルタックス(国税)と合わせると先進国のどの国よりも高くなると書いている(日本の方が高いと思うが)。不動産譲渡益であれば、1031なる税金繰延べ法があるものの、いつか払わねばならなくなる。しかし納税者が亡くなると譲渡益課税は発生しなくなり、相続人のコストもステップアップするので、死ぬのが一番の節税策とまで言われている。
カリフォルニア州の税率は12.3%であるが、所得が105万ドル(1億2000万円)を超えれば13.3%となり、100万ドル(1億1000万円)を超えればMental Health Tax 1%が加算される。一方、連邦税であるが、新税制では最高税率が39.6%から37%に下がったが、それでもカリフォルニア州の住民は最高税率で50.3%となる(日本は4000万円を超えると55%、それに社会保険料を加えると、はるかにアメリカより上だと思えるのだが)。
トランプ新税制でのキャピタルゲイン課税だが、1年を超える長期投資に対しては優遇税率が適用され、連邦税は所得レベルに応じて0%、15%、20%と分離課税で、所得が25万ドル(2800万円)を超えると3.8%のInvestment Taxが付加される。これは改正前と同じだが、Tax Bracketに変更があるので税率は多少低くなる。カリフォルニア州では長期投資の優遇がなく、最高税率は13.3%なので37.1%となる(所得が100万ドルを超えた場合のみ)。
そもそもカリフォルニア州の税率が上がったのは、2012年に教育およびヘルスケアの財源を確保するため、Proposition 30が議会で成立、更にProposition 55により2030年までこの税率が延長されることになった。この高税率を避けようと、州税がもともとないネバダ州、テキサス州、フロリダ州、ワシントン州に移り住む人も少なからずいた。実際、2013年から2014年にかけて25万人がカリフォルニア州から他州に移住したのである。そのうち10%がテキサス州である。自己所有の不動産を残したまま他州に移住している者も多いが、その不動産を売却した場合の譲渡益課税はカリフォルニア州を源泉としていることから、カリフォルニアの州税がかかってしまう。しかし株式譲渡益課税は他州に移ればカリフォルニア州の課税はなくなる。したがって訴訟による和解金を受け取るような場合、直前に州外に移る者が結構多い。
カリフォルニア州税務当局(Franchise Tax Board = FTB)は常に州外に移住した者の追跡調査を行っている。法律では1年のうち9か月カリフォルニアに住んでいればカリフォルニア州の居住者となり、州税の課税対象となる。偽装してカリフォルニア州の住民ではないとする者の調査をする。カリフォルニア州に住居があるのか、配偶者や子供はどこに住んでいるのか、子供はどの学校に通っているのか、銀行口座は、仕事は何かなど調べる。これは居住者、非居住者の調査と全く変わらない。さらに運転免許証、投票権の登録、車の登録はどこか、雇用主は誰、などを徹底的に調べ、カリフォルニア州での課税、納税義務があるかどうかを判断する。
このようにカリフォルニア州では税率だけを見る限り、日本の次だが、限りなく所得税控除や税額控除は日本よりも多い。しかも、脱税をしたとしても、カリフォルニア州の場合は時効が4年とされている。私もカリフォルニア州の納税者だが、実効税率を考えると高税率の州だと思えない。
☆ 推薦図書 ☆
市川眞一著 『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』 日本経済新聞出版社 1600円+税
2012年2月の総選挙で勝利し、第2次安倍内閣が発足した。大胆な金融政策、機動的な財政策、民間投資を喚起する成長戦略という「三本の矢」。日銀の総裁に黒田氏を置き、物価上昇率2%を当面の目標とし、2年を目途に黒田氏も確約した。しかし5年以上経っても2%どころか、マイナスになっている。反対に日銀の資産規模は拡大を続け、今やGDPに近い数値となっている。大胆な金融政策をとりながら、なぜ2%の物価目標を達成できないのか、そしてこの金融緩和が将来的に副作用を生じさせないのかが問題である。この物価が上昇しない最大の原因は「人口減少」と「高齢化」である。先進国の中で、日本は最も失業率が低いが、賃上げ率も最も低い。雇用重視の政策がデフレに陥った最大の原因であるといえる。
危惧されるのは、日銀の収支の悪化が円と国債の信認を失わせ、インフレを拡大し、大幅な物価上昇を招く恐れがある。現在、家計の現預金は637兆円、政府の純金融債務は823兆円、大型のインフレが起こった場合、家計の資産は政府に移転する。政府が家計の保有する金融資産に課税するのと経済効果は同じなので、これを「インフレタックス」という。終戦直後、日本がハイパーインフレになったとき、預金封鎖や財産税を課した結果、多くの国民が預金の実質価値を喪失した。
今の金融政策を続ける限り、意図せざる物価上昇を否定できない。このリスクの認識が足りないと著者は警告している。