平成31年度税制改正案が、与党から公示された。さまざまな新年度税制であるが、民法の改正により、40年ぶりに相続法制関係が改正され、配偶者の居住権なるものが出現した。これは、例えば、夫名義の家に夫婦で住んでいたが、夫が亡くなり、その家を長男が相続したとする。すると長男が、自分の家になったのだから母親に出て行ってくれ、と言う。母親は家を出ても当てがない。そういう状況を救おうというのが、昨年7月に成立した改正民法である。日本人も変わったものである。というより悲しい。妻が今まで住んでいた家から夫の死によって追い出される。私の世代では考えもしなかった。法的に言えば「配偶者居住権」とは、配偶者が居住していた相続財産である建物について、残った配偶者に終身または一定期間、使用を認める法定の権利を設けるというもの。
相続という観点からこれを考える。家を相続した長男は、今までなら家屋の相続税評価額が、そのまま課税対象になったのであるが、配偶者居住権付き、つまり負の財産と共に家屋を取得するのであるから、その分評価が低くなる。一方、配偶者は家屋そのものを相続するより、配偶者居住権を取得した方が相続財産の価額合計が低くなり、相続税負担も少なくなるというわけだ。その分、遺産分割の協議で預貯金などを多く請求できる。今の家族を象徴しているのかもしれない。
長男は家屋を相続した場合、従来の相続税評価額から、この配偶者居住権なる額を控除しなければなるまい。ならば、この配偶者居住権はどのように評価するのか。終身だとすると、90歳の配偶者と50歳の配偶者では、その家の使用期間が当然異なるので相続財産としての評価も異なる。今年度の税制改正では、この点、「平均余命」という言葉を初めて用いた。平均寿命は0歳児があと何年生きられるかということだが、平均余命は、例えば60歳ではあと何年かというと、30年ということらしい。
例えば家屋の評価額が1000万円、残された配偶者の平均余命は15年となるとすると、財務省案によると、法定利率3%の複利現価率で計算する。そうすると、「配偶者居住権」の価値は360万円になる。長男の取得した家屋の価額は640万円、母親は360万円の相続財産を取得したということになる。そして母親が亡くなった場合は、この360万円の相続財産の価額はゼロとなる。
なんとも奇妙な民法、相続税法である。
☆ 推薦図書 ☆
文藝春秋編集者 『一切なりゆき ~樹木希林のことば~』 文藝春秋 800円+税
この本は、亡き樹木希林の語録を文藝春秋の編集部がまとめたものである。彼女は20歳のときに、あの森繫久彌によって才能を見出され、勝新太郎に「みんなお前の芝居を真似て出て来たが、お前を超えている者は一人もいない」と言われ、ビートたけしには「普通の役者と出ると差がつきすぎる」とまで言われた名女優だった。彼女は活字においても多くの言葉を残した。実は、私は彼女と30年前に二度ほどお会いしたが、今でも鮮烈に脳裏に焼きついているのは礼状だ。実に達筆で、文章も上手だった。
この本は6章まであり、そのなかの言葉。「人は死ぬ」と実感できればしっかり生きられる、そして死ぬまでの間に残したくない気持ちを整理しておく。夫、内田裕也との凄まじい戦いは、でも私には必要だった。言葉ひとつで、人が、長い歴史の夫婦が癒されるのです。そして謝罪というのをしておかないと死ねない。「向こうが悪いんだ」と言い続けて、何が生まれるのでしょうか。
この本は、ある意味、哲学である。
葬式の時、娘、内田也哉子が参列者に「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」と挨拶した、と。