日産自動車元会長、カルロス・ゴーンの背任事件に関連し、東京国税局が5年間で10億円の申告漏れを指摘した。大きなものでは、同社所有のプライベートジェットを私的な海外渡航に複数回利用していたとして、その分を否認した。プライベートジェットは同社の役員連中も利用していたようであり、5年間で数回私的に使ったというが、その程度で否認されるのであれば、他の会社のプライベートジェットも厳しく調査をすればその程度はザラであろう(特にオーナー経営者)。もし国税局がこのことでゴーンに尋ねたとしたら、国税局職員に「家族も乗っていたが、業務遂行上、必要なフライトだ」とまくしたてたに違いがない。当局も課税決定した後、裁判でひっくり返されたらと思うと、この程度は呑んだであろう。
税務調査で立ち合いに当たった会社関係者は、それこそ「ゴーンのしたことは、みな悪い」と説明すれば、上司信任が得られる。今さらゴーンを擁護する社員役員はいるわけがない。当局にとっても、課税し放題の感がある。また、実体のないコンサルタント会社にコンサル契約をして8000万円を10年間(うち5年間は課税)支払ったというが、実体がなければ、それこそ他の役員に善管注意義務があるはずで、その辺の零細企業ではあるまいし、会社としての責任はどう説明するのかが、大いに問われる。さらに言えば、今回の税務調査で、高い監査報酬を毎年得ていた監査法人は株主に対してどう説明するのかもある。
そして課税の中にはゴーンの出身大学に寄付した金額まで否認されている。寄付金はもともと損金性がない。理由は「反対給付がない」からである。トップの出身大学への寄付金が否認させられるのであれば東京大学、慶応大学など数えきれない大学に企業から寄付金がある。さらにハーバード大学やスタンフォード大学にも、日本の個人法人から寄付金がある。
そして、この税務調査で否認された額は、イコール、ゴーンに対しての給与(賞与)とされるが、ゴーンは日本に納税管理人を置いているのかどうか。
いずれにしても、今までの常識を覆す課税決定だが、日産自動車はすぐに追徴税額を納付、すべてゴーン一人のせいで終わり。まさに「欠席裁判」。日産自動車は課税に至るまでの経緯、理由を株主に説明しなければならないのではないだろうか。
☆ 推薦図書 ☆
佐藤弘幸著 『税金亡命』 ダイヤモンド社 1600円+税
著者は元国税局勤務、国際税務の本であるが、何故か小説にしている。主人公は東京国税局課税第一部・統括国税実査官(情報担当)高松龍二。日本とアジアのタックスヘイブン、香港を舞台にした脱税事件物語。脱税を取り締まる国税局、脱税に手を染める富裕層、脱税の手引きをする国税OB税理士。この三者の攻防戦が、この本の筋書きである。ハンドキャリーによるキャピタルフライト、金融システムを活用した脱税資金の出口戦略など、オフショア利用者の常識が散りばめられている。難を言えば不必要な会話が多いが、国際税務に日本がいかに立ち遅れているかの盲点を突いた小説、労作である。だが、本当の富裕層はこのようなスキームは組まないだろう。しかし国際的な節税を考えている富裕者には、入門書としては最適であろうと思われる。