バイデンが大統領に就任して以来、トランプのメディア露出が減少したが、今週久しぶりにWall Street Journalや Washington Timesで派手な報道があった。トランプはNY Times と自分の姪であるMary Trump並びにNY timesの記者3名に対し1億ドル(110億円)の訴訟を起こしたのである。このNY Timesの記事は、トランプの納税回避術や父親から4億ドル(400億円)の遺産相続を受けたことなどを書いたもので、書いた記者は2018年にPulitzer 賞を受賞している。この情報源はトランプの姪のMary Trumpであり、彼女も今回の訴訟対象となっていて、トランプはこのようなファイナンス関係の暴露は2001年の家族秘密保持契約に反するとしており、契約違反であり、極めて悪質であるとしている。
トランプがニュース媒体に対し訴訟を起こすのは過去数十年間、日常茶飯事であったが、ほとんど勝ったためしがない。日本でもそうだが、公人が報道機関・メディアを相手に勝訴することは大変なことで、殆どの訴訟は失敗に終わっている。昨年トランプの兄ロバートがMary Trumpが書いた”Too Much and Never Enough: How My Family Created the World’s Most Dangerous Man”の発行を止めようとしたが失敗に終った。一方でトランプの戦略は裁判による勝訴よりも、彼が長い間繰り返し言っている、自分は”Fake News”の犠牲者であることを宣伝することが第一であり、次に、政治的な立場の強化であり、更には支持者からの寄付を増やす目的があると考えられる。彼は先日の記者会見で他の嘘つき報道機関への訴訟をもっとやるぞ と言っているほどだ。
元NY Timesの記者Tim O’Brienは彼の訴訟は殆どの場合、威嚇的な武力の誇示のようなものだと述べている。トランプは何があろうとも巻き返すという所を見せようと努力するが、結局そのような努力は無駄に終わる。O’Brien氏自身も2005年に “Trump Nation: The Art of Being The Donald”を執筆し、トランプにより提訴されたが、2011年の裁判でトランプは敗訴している。
2001年の最高裁の判決では、報道機関は不法な手段で得た情報を記事にしたとしても、その責任はないと判決を出している、NY Timesのトランプの税金関連の記事は世の中の関心事ではあるが、トランプは必ずしも法的な救済を求めていないかもしれない。トランプが報道機関を脅かす訴訟のパターンはいつも決まっていて、訴訟で報道そのものを否定しようとする道具として利用する。訴訟によりメディアを信用ならない敵として作り上げ、ジャーナリストの保護を侵食させる作戦である。トランプ自身は最高裁が銀行に対しNY検事に対し税務申告書の開示命令を出したにも拘わらず、別の訴訟を起こし拒んでいる。また、Trump Organization のCFOの公判が近く行われることから、またまた、会社ぐるみの脱税疑惑が明かされるかもしれない。更に、トランプタワーにはWells Fargo Bank から1憶ドルの負債がある。昨年末には稼働率が85.9%から78.9%へ下がり、要注意貸出になっているとBloombergは暴露報道した。2024年の大統領選出馬を宣言しているトランプだが、それまで身の潔白が持つのか怪しくなってきた。
☆ 推薦図書。
オリヴィエ・シボニー著 野中香保子訳 「賢い人がなぜ決断を誤るのか?」日経BP 2200円+税
優れたリーダーといわれる人が、誰しもが疑問に思う悪い意思決定を下すのはなぜか。この謎について行動科学はついに答えをもたらした。この間違った判断を誤らせる原因となるのが様々な「バイアス」である。ある成功ストーリーを聞かされると、合理的でなくても受け入れ、意思決定を誤る。これは反証を無視ししようとする「確証バイアス」によって引き起こされる。人は、成功したカリスマ経営者を模倣しようとするが、リスクに挑んだものの失敗した多くの人には目を向けない。これを成功者だけに焦点を当てる「生存者バイアス」というが、単に成功者を真似ても成功はしない。優れた意思決定をするのには次の3原則が必要だという。①対話②意見の相違・・異なる意見を持つ人を歓迎すること➂組織の力学・・社員に発言する文化を育てる。
① ②➂とも、わかっているが現実は周りに茶坊主ばかりになる。裸の王様に陥る創業者は多い