Pandemic(コロナ)中はIRSのカスタマーサービスに電話をしてもつながらないことが多く、納税者も困り果て、そのためアメリカ議会でもかなり問題視されていた。バイデン大統領は2022年にIRSの予算を大幅に増額し、それでもってIRSでは7000人のカスタマーサービス要員が新たに雇用された。ところが、このほどIRS内の納税者権利擁護官サービスによると、最近でも納税者がIRSのカスタマーサービスに電話をしても、その3分の2は繋がらない状況に陥っていると発表している。
IRSは、カスタマーサービスはかなり改善されたと評価しているが、この評価は実際にIRSに繋がり、話が出来た納税者たちの評価である。また一部のサンプル標本からの評価で、実際に繋がらなかった納税者及び留守電に回された納税者からの評価ではないとのことだ。納税者擁護官サービスに言わせると、IRSに繋がるかどうかは、実際には宝くじに当たるかどうかに等しいとまで評価し、バイデン大統領の予算付けでも、IRSに対するアメリカ市民の評価は最低に近いとまで言われている。
昨年だけでも210万人の納税者が、IRSの徴収部(税金を徴収する部門)のカスタマーサービスに連絡をしているが5分の1以下しかIRSとつながっていない。電話がつながったとしても、その後、税金の取り立てがどうなったについてはわからないとしている。納税者の中には給与を差し押さえられ、家賃を払うことが出来なくなる深刻なケースもあり、本来このような人たちには優先的にサービスが受けられるべきだとアメリカのメディアが言っている。
また、最近では個人情報が盗まれることによる税金被害が多く発生しており(日本では考えられない)、今年の4月時点では、50万件ほどのケースが未解決となっており、IRSは解決に必要とする時間は22か月と発表している。詐欺事件であるのでスピーディに解決されるべき重要問題だが、解決には2年弱かかっているのが現状である。カスタマーサービスに人を割くのか、実際の税務調査部門に人員を割くのか判断が重要である。
アメリカでは、ここ最近の金利の急激な上昇により、税金の滞納者に対する利息及び罰金の金額が異常に膨らんでおり、この相談の為、IRSに連絡を取ろうとする納税者が急増している。IRSは自動会話を出来るチャットボットを取り入れているようだが、自動会話では解決出来ない複雑な案件も多く、納税者にとっては非常に深刻な問題だ。顧客より委任された会計事務所もIRSに何度もかける、長時間待たされるというのは日常で、この問題は単に金銭的な問題ではなく、組織上の問題でもあり、IRSは今後創意工夫を凝らした包括的な対策が必要である。その点、日本は税務相談に対応する税務職員はことのほか豊富で税務署に行けば2時間待たされることは絶対ない。しかも都会では税務署はいたるところにある。アメリカではIRSがどこにあるのかもわからない。日本と同じく警察署の所在はわかるが、税務署の所在が分からない国での税務相談は、やはり税金のプロに頼まないといけない、結局お金がかかるのだ。アメリカはタダでは自分の権利行使も出来ない国だということを自覚しなければならないのである。
☆ 推薦図書。
佐伯啓思著 「神なき時代の『終末論』」PHP研究所 1100円
著者は京都大学名誉教授で文明論の第一人者である。今は「神なき時代」である。現代文明にあっても、その根底には、「神ありき時代」の痕跡が残されている。現代文明の中心に三つの柱がある。「グローバリズム」「テクノ・イノベーション」「経済成長主義」この三位一体が人間活動の自由を拡大し、富と豊かさをもたらす。いずれにせよ拡大路線である。ともかくこの拡大路線をひた走ることが幸福を約束するというものである。一方この「拡大路線」が本当に人を幸せにするのだろうかという疑いもある。価値観が二つに分かれ欧米風のリベラルな価値観を「表層的価値観」と呼び、その価値観がうまく機能しない場所では、その背後に隠された文化や風土がもたらす独自の価値観が鎌首をもたげてくる。この価値観が「深層的価値観」と呼び、ユダヤ、キリスト教、イスラム教などの価値観とも合流する。これはロシア・ウクライナ戦争にも見て取れる。プーチン大統領は決して欧米流の価値観がロシアを幸せにするとは考えていない。スラブ民族の価値観が優先する、その意味でウクライナは同じ民族であるにもかかわらずNATOやアメリカ寄りであるのが許せない。しかしウクライナは旧ソ連のスターリンによる400万人に及ぶウクライナ人の虐殺を忘れてはいない。この書は日本のテレビや新聞の記事に没頭せず、歴史を今一度学び直す良いきっかけである。