ウオールストリートジャーナル(WSJ)によると、最近金価格が上昇し、過去1年を見ても20%以上高くなっている、今やアメリカではコストコ(スーパーマーケット)でも金の延べ棒や金貨を売るようになったので、購入する人も以前に比べて多くいると報じている。但し、多くの人は株のような投資ではなく、緊急時及び危機に対するヘッジの手段として購入する為、売却の際の税金を考えていない人が数多くいるようだ。勿論長期的な投資として考える人もいるわけだが、一体、売却の際の税金はどうなるのであろうか?日本では買う人の多くは資産として堅い価値があり、インフレにも強く、株などのように、まかり間違ったらゼロになることはないと思っている。なおかつ相続の際に隠せるのではないかという思いで購入している人も数多くいる。また売却して利益が出た場合は、株式売却益のような20%の分離課税ではなく、普通の所得(雑所得)として扱われるので、株式のような税のメリットはない。
一方アメリカでは、金売却益の税金も株式同様Capital Gainとして課税されるが、日本と違い、税率は株式より高く設定されている。更にアメリカ個人年金(IRA)で保有する場合には、非課税なので売買の記録を行う必要はないが、保有方法を間違えると重いペナルティが課される。1997年改正税法では、金もしくは銀やパラジウム等の貴金属は収集品として見做されるようになったのである。このカテゴリーには、家具、宝石、美術品、ワイン、切手等も入る。このカテゴリーの物は、売って益が出た場合は皆、Capital Gainとして課税される
Capital Gainについては、株式同様1年超の保有で長期とされる(日本は5年)。長期保有の場合で金売却者の所得税率が24%以下の場合、金のCapital Gain税率は、その者の所得課税率と同じになる。これは株式の0 – 15%に比較すると非常に高い税率となる。(因みに、これに当てはまるのは、独身者の所得は19万1590ドル(3000万円)、夫婦合算申告者で38万3900ドル(6000万円)で所得税率24%に相当する。日本では富裕層?)また、金売却者所得税率が24%超の場合は、金売却のCapital Gain税率は28%となる。これは、株式のCapital Gain税率の20%より高くなる。更に、独身者で20万ドル(3000万円)以上、夫婦合算申告者で25万ドル(3700万円)以上の所得がある場合には、3.8%の純投資所得税が上乗せされるので、実際には31.8%となる。日本と異なりかなり複雑である。
例外では、前述したIRA(個人年金)での金の所有だが、IRAの規則は厳しく、通常収集品を保有することは認められていないが、金は例外扱いされているのである。但し、実際には多くのスポンサーは金の取り扱いをしていないのが現実。例へあるにしても、1万ドルの金の売買に関しては、2.0 – 2.5%の手数料を取る。更に金の安全な保管を図る目的で四半期毎に手数料を取る。それではIRAの金を自分の家や貸金庫で管理出来るかということだが、IRA Ownerが自分の口座の金を Custodianとして保管するのはIRAの規定に反することになり、非課税ではなくなるのである。このような場合IRA口座自体が課税の対象となるので注意しなければならない。実際に、IRA口座で73万ドル(1億円)相当の金を自分たちで管理していた夫婦に対し、裁判所は27万ドル(3800万円)の課税及び5万ドル(700万円)のペナルティを課している。税金的には金の取り扱いは日本と大きく異なり、アメリカでは、金の保有・売却と株式の保有・売却とは税法上大きく異なるのである。
★推薦図書
唐鎌大輔著 「弱い円の正体・仮面の黒字国」 1100円 日本経済新聞出版 日経BP
1ドルが100円前後から150円を超える円安、少しの刺激で140円台に戻るが、また円安が止まらない。日米金利差では説明できない弱い円安。この本は長引く円安の真因についてアカデミックにわかりやすく解説しているグレードの高い必読書である。経済収支黒字国や対外純資産国というステータスは一見して円の強さを担保する「仮面」のようなものであり、「正体」としてはCFが流出していたり、黒字にもかかわらず外貨のまま戻ってこない、つまりトヨタやパナソニックなど外国で稼いだドルを日本に還元しないでアメリカなど外国に置いたまま資産運用するなど、ドル売りして円を買わなくなってきている。その意味で日本は「仮面の黒字国」と言える状況にあり、統計上の数字からだけでは見えてこない「正体」に迫る努力が必要であり、デジタル赤字や頭脳流出の課題を掲げる中、政府も経常収支は符号ではなくキャッシュフローで示すべきだとする。この本を読んで感じるのは、近い将来の1ドル=200円に向かって進んでいるのではないかと思われる。