日本でも大々的にテレビ報道したが、ホワイトハウスで、トランプ大統領は就任直後に数々の大統領令に署名、その中でも際立ったのが、以前、トランプがバイデンに敗れた大統領選後、1月6日議会襲撃事件で有罪となった受刑者約1500人全員に恩赦を与えた、しかし、中には警官に対する暴行を行った悪質な犯罪者もいる為、全員恩赦でよいのかと、共和党内でも物議を醸しだしている。いよいよトランプ劇場の第二幕が開けたとアメリカメディア叫んでいる。
今回の大統領令はバイデン前大統領が行ってきたことを否定するもが多く、日本ではあまり報道しないが、主なものだけでも、連邦政府職員のリモートワークの廃止、連邦職員新規雇用一時停止、連邦関連の書類の性別は、男と女のみとし、生まれた時の性別を使用こととするとした。また、市民権の出生地主義の廃止をする大統領令にも署名はしたが、修正憲法第14条の改正を必要とするものであり、シアトル連邦地裁で仮差し止めの訴訟がすでに起こされている。今後法廷の争いとなり、裁判の行方に注目であるが、容易には出来ないだろう。
更に、不法移民大量国外退去に向け、既にトランプ大統領は国土安全保障局を通じ司法省下にある、麻薬取締局(Drug Enforcement Administration)、火器爆発物取締局(Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosive)連邦保安局(US Marshals Service)に対し移民取締りの権限を与えた。またFBIは既に移民逮捕権限を有しており、凶悪な犯罪者の取り締まり以外はその権限を使わなかったが、今回は不法移民取締り全般にわたり、この権限を使用することになる。
通常、移民関税捜査局(US Immigration and Custom Enforcement)が(ICEと呼ぶ)、不法移民の取締まりにあたるが、今回、全司法省を上げて移民取締りを強化するようである。移民法は連邦法である為、不法移民の取り締まりは連邦捜査官が行うことになる。ただ人手不足の為、各地方自治体の協力が必要になる。保守層の強い州にある警察はそうではないが、カリフォルニア州等リベラルが多数の州の警察はよほど凶悪な罪を犯した不法移民以外、あまりICEには協力的ではないのである。このようなリベラルな州に対し、連邦取締官を総動員して取締りを行い、捕らえた不法移民を軍用機で強制送還させている。
今回対象になるのは、罪を犯した不法移民のみとしているが、カリフォルニア州の学校や教会では、いつICE等司法省の取締官が来るのか、びくびくしている。アメリカ社会は、農業や建設業などは、現場で白人は働かず、労働者の多くが不法移民で成り立っているので、今後どうなるのか深刻な事態となっている。
さて、今回の大統領令でトランプ大統領は連邦職員の雇用を一時的に凍結した。恐らくマスク氏が絡んでいるという噂。ところが、例外として国税当局のIRSは一時的ではない。これからも雇わないのである。バイデン下でIRSの予算の大幅な拡大があったが、その仕返しとして、今度は予算の削減をしようということであろう。IRSのカスタマーサービス(相談窓口)は本当に電話が通じない。これからどうなるのか、確定申告はどうなるのか、懸念されるところであるが、少なくとも税務調査は減少してゆくだろう。
最後にこの大統領令でトランプ氏は、米国はOECDによるGlobal Tax Dealから脱退すると表明した。もちろんバイデン大統領が署名したもので、多国籍企業は世界のどこで、どれだけの税率で税金を払うべきかを議論する場だが、貿易を優位にして、アメリカ第一主義にしたいということの表れである。また、法人税を現行の21%から15%まで下げるとも言っており、これは、やすやすと、実行するだろう。今年・令和7年の日本の税制改正では、国際課税のグローバル・ミニマム課税法で巨大企業の税逃れを防ぐ税法である、OECD加盟国すべての同意を得ているものである。世界の多国籍企業の法人税負担割合を公平にすべく、アメリカのアマゾン、グーグル、アップル等を念頭に置いたこの課税強化法案も、なすすべもなく泡と消える。トランプは不法移民には強い法規制を実行をするが、今までも、税法には甘い。就任前から法人税減税、相続税なし崩しゼロ、と言っていたわけだから、世界の大企業はアメリカに拠点を設けるだろうが、個人も所得税や相続税を念頭に置けば、アメリカに財産を移転、あるいは移住をする富裕層はますます多くなるのではないか。アメリカファーストである。
☆ 推薦図書。
八ッ尾順一著 「図解 租税法ノート」 清文社 3000円+税
租税法という言葉は大学の一つの講座の呼び名で抽象的である。著者は大学教授であるが会計士・税理士でもある。一般に大学で租税法は実務家でない教授が説くので、論理的であるが実際にわかりにくい。しかし実務家が書くと、こうも生きてくる学問かと思わせる一冊である。租税法で今まで理解難点だった申告納税制度における法人税、所得税、相続税等であったが租税法の観点から図解を用いての解説でうまく書ききっている。これなら会社でも経理部門に初めて配属される社員などの入門書、そしてこれから税理士や公認会計士などの受験を目指すものにとっては複雑で難解な税法を身近なものに出来る。判例・裁決なども挿入されていて実務家にとっても気楽に学習できる本である。