海外所有資産の報告義務はアメリカを真似て、日本でも来年3月15日までに行わなければならなくなったが、今やアメリカはもっと厳しい。1万ドル(100万円)以上の海外資産を所有していて、IRSに報告書の提出を怠った場合(脱税しているわけではなくとも)、1口座につき10万ドル(1000万円)か、口座残高の50%のどちらか大きい額を罰金として支払わなければならなくなった。アメリカ人は、海外口座については、本当に慎重になっている。さらに2010年から“Foreign Account Tax Compliance = FATCA”により、海外米国人口座の開示義務が外国の銀行にまで広がり、とんだトバッチリを受けている。
オバマ大統領になってから、IRSの調査が加速し資産を隠したい富裕米国人達は、これでは、せっかく苦労して築き上げた資産がまともに子子孫孫まで引き継がれないことに恐怖し(日本では既にそうなっているが)、いっその事アメリカ人をやめれば、そんなことの心配はいらない。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの国籍を取れば、相続税そのものが無い国である。
ところがExit Taxなるものがあり、米国籍を捨てた、あるいは、グリーンカードを捨てた者に対して、つまり離脱者の離脱直前に所有していた全世界にある財産を時価で売却したとして40%の税金を払わなくてはならない。これらを避けるために、離脱者も専門のプロを雇い入れ必死である。
アメリカでは相続税・贈与税の基礎控除は$5.25ミリオン(約5億2000万円)ある。これを使うのである。信託である。子を受益者とする生命保険用の信託を作り、そこに資金を贈与。あるいは家族の1人に米国籍を離脱させ、残りの家族を受益者とする信託(Foreign Grantor Trust)を作り、そこに資産を入れることで非課税贈与を行うことなどである。
これらの複雑な仕組みは、到底、素人ではできない。高い顧問料を払って節税スキームを作るのである。今日本では、相続税がかかる資産を残して亡くなる人は年間4万5千人、それに対して税理士は8万人。単純計算すると、税理士1人あたり2年に1回、相続税の申告書作りが回って来る計算だ。
毎年税法が改正される世の中、そんなプロに節税スキームを依頼はできまい。一般の人と同じ相続税対策の本を読むプロもいる。世界がクロスボーダー化し、税務もますます本当のプロの力に頼らなければならなくなった。安かろうプロでは財産を全て失いかねない。
☆ 推薦図書 ☆
関容子著 『勘三郎伝説』 文藝春秋 1,680円
早いもので、亡くなってからもう1年になろうとしている。彼は2歳から歌舞伎のスターで、以後五十数年間、表舞台に立った。この本はかつて浮名を流した大地喜和子を先ず取り上げ、それは浮名ではなく真剣で、この出会いと別れが人間を成長させた。彼女は勘三郎に「あなたってしゃべるのはうまいけど、聞くのはへたなのはなぜ?」はおもしろい。また、30歳の年の違う丸谷才一や17歳上の古今亭志ん朝、逆に22歳も年下の市川海老蔵との関わりなど、今まで語られなかった中村屋の生涯には感動する。