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Wal-Mart-Waltons(ウォルマート)家の相続税対策

このほど国税庁から昨年度の相続税白書が発表されたが、相続税がかかった被相続人は5万2394人、その遺産総額は10兆7706億円、相続税の総額は1兆2514億円とある。一方、世界一富裕層が多いアメリカ、自家用ジェット機を所有している者もごまんといる。人口は3億6千万人を超え、富裕層の死亡者の数も日本の何倍もいるが、同年のIRSの発表では、相続税の年間納税額は僅か140億ドル(1兆4千億円)しかない。日本と同じである。元財務長官のラリーサマーズも捕捉率は1%と断言している。なぜなのか?今回は全米屈指のスーパー、ウォルマートのオーナー家の相続対策を見てみたい。日本ではいくら金持ちでも3代続かないというが、アメリカでは永遠である。JPモルガン、カーネギー、フォード、ケネディなど挙げればきりがない。駐日大使のケネディも500億円資産があるといわれている

 

ウォルマートの大株主サム・ウォルトンの次女アリス・ウォルトンは、クリスタルブリッジズという美術館をアーカンソー州というとんでもない田舎に2011年に開館した。この美術館はアメリカでは有名で、植民地時代からコンテンポラリーの画家の作品を集め、メトロポリタン美術館に貸し出されているからでもある。何しろアリスは、開館にあたって、ポンと10億ドル(1000億円)の寄附をして絵画を収集したのだから。しかし何も驚くことはない。ウォルトン家の資産は1000億ドル(10兆円)あると言われている。日本でこの相続税だと5兆円は超え、日本の相続税収入の4年分は軽くある。

 

アメリカにおける相続税対策のキーワードは「信託」(Trust)である。サムは1953年から相続税対策に着手した。先ず株が上がる前に20%の持分をそれぞれ4人の子供に与え、残り20%を本人と妻とで所有、そしてウォルトンファミリー財団を作り、ここが計21に及ぶ信託を通じて運用されている。

 

この信託は「Jackie O」Trustと呼ばれている。何故ならケネディの未亡人だったジャクリーヌ、Jacqueline Kennedy Onassisが使っていた信託と同じもので、そう名付けられた。正式にはCLAT(Charitable Lead Annuity Trust)というもので、収益を一定期間慈善団体に定期金を寄附すると、驚くぐらい相続税評価額が下がる。その仕組みをここで書くと50ページぐらいになるのでやめる。その詳しい説明は拙著「信託法の活用と税務」(清文社)の76ページ以降に載っているので、研究したい人にはおすすめする。

 

この信託で少なくとも300億ドル(3兆円)は節税されている。さらにこの信託財産はウォルマート株ではなく、ウォルマート株の持株会社であるWalton Enterprises LLCである。このLLCの本社は、アーカンソー州の誰も行かない田舎町のバイクショップの2階にある。ここで巨額の富が築かれているが、何故LLCかと言えば、LLCの持分は流動性がないことから、アメリカではほとんど税務上評価されないからである。これはLLCを使った節税策でアメリカの富裕層で半ば常識の節税対策である。

 

オバマ大統領は昨年の演説で、このようなループホールを埋めることによって、10年間で181億ドル(2兆円)の税収を上げると言っているが共和党多勢の議会で通るわけがない。話を戻すと、オーナーであるサム・ウォルトンが1992年に死んだときは、妻ヘレンに全部相続させたので、税金はゼロ。そのヘレンが2007年に死んだとき、彼女の全財産は「Jackie O Trust」にあり、これも税金はなしだった。

 

クリスタルブリッジズ美術館は昨年、100万人目の訪問者を迎えた。行ったことのある人ならわかるが、この片田舎に、1000億円の美術館を建てたのだから、何も産業のない地元民に多くの雇用を生み出している。だから相続税は払わないが、地元民にとっては神様だ。「ウォルトン家の人々は私たちに何て寛大なんだ」と尊敬している。同じ相続税対策だけど、ただ資産を隠すのに没頭している、ある種の日本人。日本もこのような税制をとれないものだろうか。

 

 

☆ 推薦図書 ☆

遠藤功著 『言える化』 潮出版社 1,470円

日本で一番売れているアイスキャンディ「ガリガリ君」。2012年の売り上げは何と353億円。6年連続増収である。この会社、赤城乳業の秘密は、年齢や肩書に関係なく、社員が自由にものを言える、いわゆる「言える化」を徹底させることで会社の活性化につなげる。

「言える化」をするために、さまざまな場を設け、しかもすべて社員が「自分たちに任されている」という自覚を持たす。「責任」で人間の成長は加速する。責任を持たせるには、自分の仕事を持たせることが必要。「言える化」になるには皆が心を開き、腹を割って話せる関係性を作る。そのため、今どき古くなった社員旅行も毎年行っているという。

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