ウォール・ストリート・ジャーナル誌によると、2013年11月7日ニューヨーク証券取引所に上場したTwitter社の役員たちが連邦相続税を節税したとしている。Twitter社の会長Jack Dorsey(36歳)、筆頭株主のEvan Williams(41歳)、CEOのDick Costolo(49歳)らはまだまだ若いが、3人で115ミリオンドル(120億円)の節税はどのような方法で行ったのか。同誌はトリックを使ったのだと言っている。
それは大きく分けて3つある。第1番目は信託、Grantor Retained Annuity Trust(通称GRAT)を活用。このGRATは浅学非才な私にとって日本語訳はできない。このGRATというのは、少々難しいが、委託者は受託者にT社の株式を贈与し、信託期間中、その元本プラスIRSが定めた利率によるリターンの総額を定期金として毎年受け取るように設定する。信託が終了する頃には元本及びリターンの支払いを終えているので、受取人が信託の資産を受取るときは、この資産の価値がゼロになって、何ら贈与税は発生しないことになる。
また、信託したT社の株式は上場する前に、つまりあまり価値のないうちにこの株式を移転している。日本と違ってアメリカでは非上場株式の価値はほとんどない。この方法は上場を控えた大株主の常とう手段として、半ば公然と行われている。残念だが日本にはこの節税方法は認められていない。考えれば、これから上場を予定している日本のオーナー経営者はアメリカの居住者になれば、この方法は可能なのである。
2番目に利用している信託がGift Trust。Evan Williamsが2012年11月にグリーンモンスター信託(Green Monster Trust)と呼び、56万4000株をこのトラストに移転した。グリーンモンスターといえば聞いたことがあるのではないか、大リーグのファンなら誰でも知っている、レッドソックスの本拠地球場のあの高い高い緑の左翼フェンスである。彼はレッドソックスのファンだから、左翼のフェンスはグリーンモンスターという高いフェンスでホームランが出にくくなっている。税金が出ないようにグリーンモンスター信託と名付けた。さらにECOのCostoloの妻もLorin Costolo Trustに273000株を移転している。これも同様の節税である。
3番目の節税はLLCの活用。これは前回のウォルマートのWalton家も利用していたが、Williamsは44.3百万株をObvious LLCで所有していて、このLLCが株式を所有することで株式の評価額を下げることができる。例えば、Williamsが単純に100万ドルを子に贈与すれば40万ドルの贈与税がかかる。ところがLLCの株式を贈与したとすれば、100万ドルが65万ドルの評価になる。それをもっと推し進めれば、価値がゼロにまでなる。さらにグリーンモンスター信託はペーパー上Promissory Noteを発行し、このLLCの持分を安く買うことができる。これにより、この信託は更に多くのTwitter社株式を税金を払わずに所有することができる。日本人にはなかなか理解できないが、これがアメリカの相続税対策なのである。
民主党と共和党が対立するアメリカだが、このように相続税・贈与税の逃げ道は多数用意されている。この享受を受けるのは、アメリカ市民かアメリカ永住権(グリーンカード)所有者だけである。これからますます、相続税・贈与税の負担が増す日本。真剣にアメリカ移住する富裕者が増加するかもしれない。
☆ 推薦図書 ☆
井川意高著 『熔ける』 双葉社 1,470円
ご存知、大王製紙前会長の懺悔録である。シンガポールの高級ホテルでのカジノのVIPルーム。そこはギャンブラーにとっては地獄の釜の蓋に他ならなかった。まもなく、その燃え盛る炎の中に自らが堕ちていくとも知らずに―。
彼はギャンブル依存症を赤裸々に書いているが、本の大半は生まれ育ってから今に至るまでの自叙伝。父親との確執から、東大法学部に至るまで、また、若くして大王製紙の社長になって、様々な一流の人と出会ったことなどを書き綴っている。その意味では日経新聞の「私の履歴書」を読むより、はるかにおもしろいが、客観的に本書を読んで、これほど世間知らずだと思わなかった。