☆ 今週の推薦図書 ☆
髙橋秀実著 『弱くても勝てます』 新潮社 1,365円灘か開成かと言われるぐらい、東京大学への合格数が多い開成高校。受験勉強ばかりで体育系はないのかと思ったら、そうではない。高校野球で東東京のベスト32、ベスト16に勝ち進んでいる。どんな練習をするのか。「守備というのは各校、案外差がない。1試合で処理する打球は3~8個。猛烈な守備練習の成果が生かされるような難しい打球は1つあるかないか。そのために少ない練習時間を割くことはできない」。これは野球に限らず仕事も同様である。限られた時間を効率的に活用し、常識と考えられるやり方を疑うことを開成高校野球部は教えてくれる。
安倍内閣は2015年1月から、相続税と所得税の最高税率を共に55%へ引き上げることを決定した。与党、公明党は60%へと謳っているが、自民党はとりあえず急激な引き上げはいかがかとしている。これで自分が稼いだカネも、自分の手取りよりも「お上」の手取りの方が多くなる層が出現したわけだ。消費税増税に併せて、富裕層にも重税しないとバランスが取れないとの考えからであろうが、本当に国民はそう願っているのだろうか。
フランスのオランド大統領は所得税の最高税率を75%に引き上げるとしたが、そのため重税を嫌って富裕層の国外脱出が相次いでいるうえ、違憲判決まで出た。モエヘネシー・ルイ ヴィトンのヴェルナール・アルノーはベルギーに脱出し、著名俳優のジェラール・ドパルデューはロシアでプーチン大統領からロシア国籍のパスポートを直接手渡された。ロシアは所得税の最高税率も10%台である。プーチン大統領に彼はこう言った。「フランス政府は成功を収めた人や、才能がある人を罰しようとしている」と。
税金に敏感な欧米人は自らが国外へ脱出する。これは歴史が証明している。家族と共に財産を持って逃げるのである。ナチスが台頭したときもそうである。その時も、国外脱出と共にスイスに現金を運んだ。
一方、島国の日本は言葉の壁もあり、脱出する者は少数である。しかし、日本人は、自分は脱出しないが、自分の財産だけを国外逃亡させるのである。最近これは顕著である。シンガポール、香港は言うに及ばず、アメリカ、オーストラリア、カナダなどに拡大している。特に、信託(Trust)を利用した逃亡が多くなっている。2015年から海外資産の保有が5000万円超の者が申告を義務づけられた。あまりにも多いキャピタル・フライトに国税庁が規制の網を投げたのであるが、富裕層も必至である。何しろ、所得税を多額に納めた税引後の財産に、さらに55%の相続税を課せられるのである。金持ちから見れば、功より名を遂げた成功者を、仏の俳優ではないが罰しているのである。
私見であるが、額に汗して儲けた金に重税をかけるのは当然だと、はたして国民は思っているのだろうか。かつて松下幸之助は何年も所得番付全国一を続けた。「彼にもっと税を」といった世論はなかった。また、イチローや松井、金本やダルビッシュ、田中将大なども若くして数億円の年棒を稼いでいたが、・・・・・。同様である。
日本経済の発展のためには、富裕層に国内投資や雇用を創出するカネを使わせないといけないのであって、富裕層に国外脱出を考えさせる税法であってはならないのである。イソップ物語で旅人のコートを脱がせるのは、北風ではなく、太陽なのである。