国税庁は、平成25年12月末現在の国外財産調書の提出状況を公表、それによると5,000万円以上の海外資産を保有している人は5,539人であるとした。香港、シンガポールにある日本人口座数だけでも数万人といわれる。多分アメリカだけでも、この何倍かはある。現実問題として国税当局は対応できないだろう。国外財産の所有状況をいちいち調べられない。
アメリカ政府のようにスイスのUBS銀行だけを狙って、その中のアメリカ人口座をあげただけでも7万人以上いた。日本政府は海外の銀行に圧力をかけるわけにもいかず、日本の国税当局から外国の銀行に調べてくれと言っても、無視されるのがオチである。ここは日本人の正直さにかけるしかないといってもこの提出状況である。それでも国税当局は、個人の過去の国外送金から丹念に調べ上げ、その中から特定の個人へ正直に国外財産を申告するよう指導している。
国税当局の発表での5,539人の海外資産の合計額は2兆5,142億円、そのうち約2兆円は有価証券と預金である。土地建物は僅か2,672億円である。預金はさておき、不動産は余りにも少ない。何%の人が正直に申告しているのだろう。
それより驚いたのは、2兆5,142億円の海外資産のうち東京国税局の管轄の人が2兆989億円保有しているというではないか。何と8割が首都圏の人である。2番目は大阪国税局管轄の人の合計が1,790億円で、名古屋国税局が931億円であるので、日本人の富ほとんどが首都圏の人々である。これを見てわかる通り、地方の資産家というのが不動産所有者であり、預貯金は少ない。全国の地価は23年間値下りが続いているので、もっと地方と東京との格差が広がる。東京と大阪と名古屋の合計だけでも全国の94%である。
東京の富裕層の節税対策は今や、アメリカ人の富裕層のそれと似たような対策をとっている人も多く、アメリカの金融機関を巧妙に使って凄い金額を動かしている人も少なからずいる。このような人々の海外税対策に日本の当局は追いついて行けるのかどうか見ものである。
国外財産調書制度については「平成27年1月1日以後、国外財産調書に偽りの記載をした場合、正当な理由がなく提出期限内に国外財産調書を提出しなかった場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」とある。懲役刑まで持ち出して、国税当局も必死であるが、来年から相続税、所得税等の最高税率は55%となる。富裕層の海外資産への移転は、円安も手伝って止まらない。
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L70とは70歳以上のLady(女性)のことを指す。これからの時代はL70が経済をリードする。2050年までは70歳以上の人口は大きく伸びる。70代の8割はほとんど健康に生活を送れていて、消費生活は豊かで、しかも女性が消費の主導権を握っているという。統計によると70歳以上の世帯は、牛肉、豚肉など他の世代よりも高いものを買う。その他、家庭生活で使う茶わん、皿なども高価なものを買う。しかもL70は高学歴化し、趣味、娯楽、旅行、読書などの分野でも消費が増える。この層をこれからターゲットにすべきだという。