☆ 今週の推薦図書 ☆
石弘光著 『増税時代』 ちくま新書 882円著者は自民党時代の政府税制調査会の会長を加藤寛氏から引き継いで6年間務めた一橋大学教授でもあった。この本は日本の財政は危機的な状況であるので、国の歳出削減は必要だが、増税はもっと必要だという。消費税を10%に上げてもそれは単なる「止血剤」にすぎないので、20%の国際的な水準まで引き上げなければならないと主張する。とにかく「増税時代」に突入したのだから、国民は皆覚悟しろと言う内容である。私は1990年から、ずっと「今年の税制はこう変わる」を毎年書いてきたが、新税制を創るにあたって一番「税」を知っていたのは、山中貞則氏であった。自民党税調会長を永年務めてきた人だ。次に知っていたのは田中角栄氏であったと思う。政府税調会長でもあった加藤寛慶応大学教授もよく勉強していたが、この著者の石氏の税理論は「財政学」である。税制はひとえに、国民一人一人の痛みがわからなければならない。この本はそういう意味で「学者」の書いた税理論であるという前提で読めばおもしろい。
平成25年度新税制は4年ぶりに自民党が作った。やはり地に足のついた税制である。この中で、祖父母が孫に教育費をまとめて渡す際、孫1人につき1500万円まで贈与税をかけないとする制度を創設した。これは若い夫婦にカネがないので、子育て支援の一環だとしている。
実際には、孫への入学金や授業料が必要なときに、祖父母がその都度カネを渡せば贈与税はかからない。何故なら、教育費と生活費は非課税だからだ。ただし、渡されたカネは全て使わなければ、残れば贈与税の対象になる。したがって、孫に「大学4年間の授業料だよ」と言って渡すのはダメである。
アメリカなどでは、「教育費」は絶対に税の対象とならない。今の若い人は将来の国を背負うのである。国を守るため、国民を守るための「軍事費」は重要な予算であるが、一番大切なのは若者に対する「教育費」だという考えがアメリカにある。
所得から差し引けるのに「所得控除」というのがある。配偶者控除、扶養控除、医療費控除などがあるが、「教育費控除」というのが日本にはないのを、私はおかしいと思っている。例えば子が公立の学校に通うのか、私立の学校に通うのかで親の負担が変わってくる。私の子などは小学校から大学まで私立だったので、家一軒分ぐらい負担増だと思っている。
アメリカの場合、そうした授業料は一定額まで、毎年の所得から引いてくれる「所得控除」の一つなのだ。教育にカネを費やすのは国家百年の計のいしずえである。アメリカの大学でもおもしろいことをやっているのがあって、例えば親がその年だけストックオプションなどで所得が高かったとしたら、大学のパンフレットに「節税のために大学4年間の授業料を前払いしても結構です。所得控除の領収書を発行します。但し、途中で退学しても返金はいたしません」と。
日本の所得税率とアメリカの所得税率は10%程度しか違わないというが、「所得控除」の種類と額が違い過ぎるので税率だけでは比較できない。