高裁でリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership = LPS)は法人なのか組合なのかで判決が分かれていた。このほど最高裁第二小法廷でLPSは法人であるとの結論が出た。一般には、個人が法人に出資した資金に対する分配金は配当であり、課税済みの利益から分配される。一方、組合はそれ自体が納税義務者ではなく、組合に出資をする者が分配を受けたとき、自ら稼いだとして申告しなければならない。つまり組合は単なる箱であり、各組合員に分配される損益を、各組合員の他の所得と合算して申告する。個人であれば組合からの損益を他所得と合算して確定申告するのである。法人からの配当所得とは違うのである。
本件は日本の富裕層の個人が、アメリカの中古アパートを購入して減価償却費を計上することによって赤字になり、それを活用して節税をはかる目的で日本の金融機関が組成したアメリカのデラウェア州のLPSに出資を行い、結果、不動産所得のマイナスを損益通算しようとしたものであるが、このLPSはアメリカ法人にあたるとして損益通算を否認したことが事件の発端である。
裁判では詳しく述べられなかったが、パートナーシップ(Partnership)は各州のパートナーシップ法及び代理法が適用され、ルイジアナ州を除くすべての州が統一パートナーシップ法(Uniform Partnership Act = UPA)を採決している。パートナーシップの課税は第A編(Subtitle A)の第1章(Chapter 1)の第K節(Subchapter K)に規定されていて、パートナーシップ自体には所得税は課せられない。つまり出資者、個々の所得として認識するため、パートナーシップは導管の役目しかないことから“Conduit Entity = 導管主体?”と呼ばれる。
最高裁では、このデラウェア州LPS法は、LPSが“Separate Legal Entity”と定めているが、日本法上の法人に相当する地位を指すものではないとし、デラウェア州の株式会社は“A Body Corporate”という考え方からする“Separate Legal Entity”を根拠に日本法上の法人に相当するかどうかも明確でない。本件LPS契約では、LPS財産の全体に係る抽象的な権利を有するにとどまり、本件LPS財産を構成する個々の物や権利について具体的な持分を有する旨を定めたものと解されず、パートナーが特定のLPS財産について持分を有しないとする州LPS法の規定の定めと齟齬することはないとし、本件LPSは法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件LPSに帰属するとして、国税当局に軍配があがった。
しかしなぜ、このような判決になったのか。一言でいうと、納税者、富裕層のコンサルタントがお粗末である。レバレッジリース等の節税商品やライブドア事件の信託を見ても、納税者側の脇が甘いというか、過去の判決を勉強していない。今回も自分で中古アパートを購入してLPSにしていれば問題なかった。単なるLPS節税商品を購入して税金を逃れようという意図がペナルティーを生んだと思われる。
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佐藤弘幸著 『国税局資料調査課』 扶桑社 1,300円+税
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