ウォール・ストリート・ジャーナル誌によると、スイスの銀行はアメリカIRSの告発によって脱税加担の罪で有罪になるのを免れる代わりに、つまり司法取引で、いかにオフショア口座を活用してアメリカ人が脱税をしてきたかの、脱税手法をIRSに開始したとある。出発点はUBSであったが最近は中規模銀行までアメリカIRSの手が伸びてきていて、アメリカ政府はアメリカ人が国外を利用しての脱税を食い止めようと躍起である。
その国外を利用した脱税の手口を発表したが、多種多様というか、この手口を開発するのにどれだけの英知と費用を費やしたことかと思わせる。スイスの銀行にとってはどれだけのビッグビジネスであったことか、銀行だけでなく、アセットマネジメント会社、投資顧問会社、保険会社、信託会社などを巻き込んでの隠蔽工作。さすがだと思わせる。
それでは、その手口とはどんなものか。口座名義を名前ではなく番号もしくはコードネームにして、ごく僅かな銀行員にしかわからないようにする(日本では不可能)。もしくは口座名義を保険会社名にする。顧客に手数料を払ってもらって、銀行のステートメントをアメリカの住所に送らないようにする。口座の名義をLiechtenstein、British Virgin Island、Panamaなど所在の偽造された会社、信託もしくは財団にする(これは日本人も含め世界中の富裕層ではポピュラーである)。トレースの難しいPrepaid Debit Cardを発行する。
さらには顧客とのコミュニケーションをコード化する。例えば、スイスのプライベートバンクであるBSISAは顧客が現金を今、必要だとしている場合、顧客は銀行に対して“Gas tank still running out on empty”(ガソリンが空だ)とか、“Can you download some tunes for us”(何曲かダウンロードしてくれ)という隠語を使っていた。まさに戦国時代の「山」「川」である。さらに、1万ドル以上の現金の動きに対しマネーロンダリング法を恐れているアメリカ人顧客に対しては、例えばSt. Galler Kantonalbankは9人の顧客に対し計300万ドルもの引出しに関し、金額を毎回1万ドル未満の小切手を書かせ小出しに引き出させていたという。さらには別の銀行では、100万ドル(1億2000万円)以上の金額を金(gold)に換え、他人名義の貸金庫に保管させていた。
アメリカの相続税率は最高で39.6%、しかも基礎控除は日本の4800万円(標準世帯)と違って、配偶者の相続取得については無制限に非課税、子が相続する場合では基礎控除は約12億円あるので、一般家庭はかからない。しかも相続税策は信託を活用して限りなくある。その国でも資産隠しはこのように国外を利用して頻繁にある。日本人にはペナルティーのように相続税が襲ってくる。アメリカ人に比べて日本人は次世代に財産を継承させるのは、日本国内では大変むつかしくなった。それゆえ最近の超富裕層の日本人は相続税対策の舞台を、ほとんど国外に移して来たが、新設された国外財産調書あたりで、はたして国税当局は掴みきれるのだろうか。
☆ 推薦図書 ☆
ロジャー・ブートル著 町田敦夫訳 『欧州解体』 東洋経済新報社 1,800円+税
EU(欧州連合)の前身ECC(欧州共同体)の発足(1957年)後の20年間は大きな経済成長を遂げた。しかし、EU域内の自由な資本と人の移動はやがて欠点ばかりが目立ってきた。例えばイギリスには東欧からの移民が多くなる一方、移民の地元では労働力不足になるといった具合である。
さらに単一通貨ユーロ、EU領域の周縁のスペイン、ポルトガル、ギリシャなどは巨額の赤字を抱える。その中で欧州中央銀行(ECB)がどうするかだ。アングロサクソンは伝統的にお金で経済システムをジャブジャブにする対応、つまり金利を下げることで経済を刺激する。その後、金利が最低の水準に達し、これ以上金利が下げられないとなるや、お金の量の増減に切り替える。これが量的緩和と呼ばれる。これはアングロサクソンが信奉してきたものだが、今や日本も追随している。EUがこれに抵抗してきたのは、それは消費家の国の政府がお金を刷ることによって容易に資金調達するからである。ドイツはこれを恐れている。イタリア、スペイン、ギリシャなどの消費のツケを最後にはドイツの納税者に回されるのが怖いのである。
この本の結論は、ユーロは最初から失敗であった。欧州統一の夢などに動かされ、現実を見ないまま最悪の意思決定をしたのが今のユーロだと。