今年度税制改正は今月末に自民・公明の圧倒的多数で衆参両院を通過し成立する。今年度税制改正で、世界で類をみない「住宅の三世代同居改修工事等に係る特例」が創設された。これは内閣府が行った子育てに関する意識調査で、理想の家族の住まい方について、20.6%が三世代同居を理想としていて、さらに78.7%が祖父母の育児や家事の手助けが望ましいとしたアンケート結果があった。国立社会保障・人口問題研究所では、出産や育児に関する最も重要な支援提供者は祖父母となっていると発表している。
これらのことから税制上も、この現実を踏まえた措置を創設。少子化を少しでもくい止めようと、世代間の助け合いを図るための三世代同居を促進するために「既存住宅に係る三世代同居改修工事をした場合の特例」を創設した。これはマイホームに三世代同居改修工事を行った場合において、平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住した場合、住宅ローンを使用した者には、住宅ローン残高1000万円を限度として最高年間12万5000円を5年間で計62万5000円の住宅ローン減税を行う。また住宅ローンを使わず自己資金で改修工事を行った者には、その年の所得税額から25万円を控除するという税制である。
それでは三世代同居改修工事とは如何なるものであるのか。どの家でもある1.キッチン、2.浴室、3.トイレ、4.玄関、この1~4までのいずれかを増設すること、そして改修後、1~4までのうち、いずれか二つ以上が複数になることが減税の要件である。つまり、三世代同居となると、キッチンやバス、トイレなどが一つでは無理であり、バスやトイレは少なくとも2か所が必要であろうとしている。これから考えるに、分譲マンションは無理である。はじめから対象外である。一軒家を増設することが必須条件になる。
そしてこの特例を受けるためには、「品質確保の促進に関する法律」に規定する機関からの証明書を添付しなければならない。かなり厳格である。三世代同居が前提の家なんてアメリカでは考えられない。キッチンやバス、トイレが複数である家も普通である。日本ではこれが複数になるということが三世代同居の確認になるのか。現にこの税法は前述の1~4が複数になったという証明だけで減税措置を享受できる。改修後、三世代同居しているかどうかの証明は不必要である。極端に言えば、一人住まいの者が1~4の工事を行っても「三世代同居改修工事の特例」の適用を受けることができるのである。不思議な新税制である。
☆ 推薦図書 ☆
井上恭介著 『牛肉資本主義牛丼が食べられなくなる日』 プレジデント社 1500円+税
中国の肉に対する需要が旺盛だ。中国では元来、肉といえば豚や鶏、あるいは羊だった。牛肉は中国料理ではスープのだし用だった。しかし、この1、2年で事は別世界になった。中国での牛肉需要は何も中国人が豊かになっただけが原因ではない。経済減速下のヨーロッパなどが中国からの製品輸入を減らしたため、牛肉輸入業者が牛肉のブームを煽り始めた。「牛肉を売る人が急に増えた」、「牛肉に別に拘らなかったが、牛肉が儲かることがわかり、牛肉のメニューを増やせ」、「ステーキ肉を食べさせろ」で牛肉ブームとなった。
クリスマスの飾りが町を彩るニューヨーク。高級レストランで多くの家族が一冊1万円超のステーキを頬張る。その同じニューヨークで、そのレストランの一本向こうの通りで、地元の教会が施す食事の配給車に長い列ができている。このように過激化していく先に何が待っているのか。どの国でも十分食べることができるのは一部の人だけで、多くの人はまともに食べられなくなっているのだ。これまで当たり前に牛肉を食べていた人が、はっと気づくと買えなくなっている。牛肉の価格が急に上がり始めたからだ。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のごとく、一部の人しか登りきれず、多くの人は脱落する。日本人も「牛丼がたべられなくなる日」が近づこうとしている。