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アメリカ・デラウェア州LPSを活用した節税策、最高裁の判決

日本で個人の所得税確定申告を行う際、個人の所得は10種類ある。事業所得、給与所得、利子所得などである。損益通算できないものもあるが、不動産所得の場合、減価償却費が大きいものでは、キャッシュフローはマイナスにはならないが、不動産所得ではマイナスになる場合は多い。今流行のタワーマンションを購入して賃貸すれば、間違いなく不動産所得は赤字になる。給料や事業所得が高額な人は、これを利用すれば不動産所得のマイナスを取り込むことができ、確定申告で税金が還付される。

 

本件は、その不動産所得のマイナスが多額になるアメリカの不動産を舞台にして行われた。アメリカのデラウェア州の法律に基づき設立されたLPS(Limited Partnership)が中古住宅の賃貸事業、日本の税法によれば、築後22年の物件を購入すれば減価償却の耐用年数は4年である。たちまち不動産所得は大赤字になるというわけである。LPSはパススルー課税といわれ、所有主がLPS名義でも、実質は個人の所有であるとして、不動産賃貸事業の損益は個人で行っているとして計算され、個人の確定申告書に反映される。

 

裁判では全く意見が出なかったが、アメリカでは個人で賃貸物件を所有する場合、LPS、LLC、LLPなどパススルー課税対象の受け皿を使う。なぜなら、個人で、例えばアパートを所有していると、アパート入居者と賃貸借契約書で貸主にその個人名が出る。そうなると、階段で滑ってケガをしたのは階段のせいだとか、バスルームの蛇口で手にケガをしたとかで、貸主を訴える。特に貸主が富裕層に属すると、その賠償額も巨額を要求してくる。払わないまでも弁護士費用もかかるので、貸主が誰だかわからないようにするため、訴訟リスクを避ける意味でもそのようなパススルー課税対象の法人を使うのである。ところが、日本の最高裁は、このパススルーの事業体は法人であり、そこで生じた損失は法人の損失であり、個人の損失でないとし、個人の損益通算は認めないとした。

 

この事件は、アメリカのカリフォルニア州にある中古住宅やフロリダ州に中古住宅を集めて、投資金額を1口20万ドル(2000万円)とする投資を証券会社が募ったことに基因する。この節税対策は、不動産業を行うのではなく、単なる金融商品に投資して、不動産所得のマイナスを稼ごうとしたものである。過去に航空機リース事件もあり、最高裁は事細かく解説しているが、要はLPS、LLCを使っても個人が自己責任で不動産事業を行っていれば損益通算はできるのである。カリフォルニアやフロリダに足を運ばず投資をすることだけで、額に汗をかかないで、節税を行うことのリスクは、日本人富裕層にとって今後考えないといけないことを、この最高裁は示した。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
日本経済新聞社編 『シャープ崩壊』 日本経済新聞社 1600円+税
早川徳次が100年以上も前に創業したシャープ。かつてのJALの崩壊を見るがごとく惨劇が起きた。それではこの名門企業を壊したのは誰か。シャープは権力者の人事抗争の末に悲劇が起きた。大阪・堺工場に代表される液晶事業への身の丈に合わない巨額投資の失敗はもちろんだが、経営危機に陥った後に内紛が激化し、効果的な打開策を打ち出せず、傷口が広がったのだ。
中興の祖といわれ、創業者・早川に請われて社長になった2代目、佐伯旭、3代目社長は佐伯の姻戚にあたる辻晴雄。4代目社長は佐伯の長女の夫、町田勝彦、5代目社長は東大工学部卒の片山幹雄、実はこの頃からおかしくなり始め、6代目社長になった奥田隆司にいたっては「なんであいつが社長や」と社内では公然と批判が飛び出した。6代目片山社長から崩壊が始まったが、この本で読めるのは、会社の倒産のほとんどが、内部の問題だということがわかる。

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