ウォール・ストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズなどによると、アメリカ司法省はアメリカ人及びグリーンカードホルダーに徹底的に脱税の調査を開始したと。アメリカ人及び永住権者はアメリカ国外にある5万ドル(500万円)を超える預金につき、毎年IRSに報告することが義務づけられている。これをFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)といい、オバマ大統領が就任早々、アメリカ人の国外資金の逃避や脱税を規制する目的で法律を作った。UBSなどはこのターゲットになり、数多くの脱税者を摘発することになった。日本の銀行や証券会社もこのFATCAの影響を受け、アメリカ人の預金口座を作ることはリスキーなので及び腰になるなど現場も大変である。
今年になってIRSはスイスの銀行から、アメリカ人の預金口座の全リストと預金金額の情報を得た。その情報をもとに、FATCAによってアメリカ人が自主的にIRSに開示した預金金額との照合を始めた。これは徹底的にやるとしている。もしスイスの銀行からの情報と本人の申告が異なる場合は告訴、逮捕するとまで司法省は騒いでいる。司法省はどれくらいの金額の口座につき調べているのかについてはコメントを避けているが、司法省高官によると、司法省は100万ドル(1億円)以上の残高のあるスイス銀行口座を調べ、脱税の疑いのある者が隠匿をしているような証拠がある場合には、50万ドル(5000万円)以上の残高のある口座まで調べようとしている。
アメリカ司法省はLimited-Amnesty Program(限定的特赦プログラム・・訳?)に参加したスイスの80行の銀行からのデータを基にして調べを進めているようだ。このプログラムは今年1月にデータをすべてIRSが取得しており、この参加した80行に対しては、アメリカ人あるいはアメリカ人とおぼしき客の口座情報を全てアメリカに通報するよう強制している。アメリカに全てのデータを引き渡し、捜査に協力し、罰金を払えば(これまでの罰金合計は、ちなみに13億ドル(1400億円))罰一等を減じ、刑事告発はせず、刑務所へ行かずに済むと言っている。
日本も、国外財産調書制度を法律化し、国外に5000万円以上財産を持っている者は全て、その詳細を申告せよとなった。しかし、申告している者はあまりに少ない。しかも日本が海外の銀行に協力を求めても、ほとんど協力してもらえない。したがって、納税者にきちんと報告しなさいと言うほかはない。日本もアメリカのFATCAを見習って国外財産の報告義務を課したが、その国外財産調書の報告がはたして正しいのかどうか。どうやって日本の国税局は調べるのだろうか。外国政府はアメリカに対しての対応と日本政府に対しての対応は、それこそ天と地ほどの差がある。国税局は日本人の正直さに期待するほかはないのか。
☆ 推薦図書 ☆
宮下奈都著 『羊と鋼の森』 文芸春秋 1,500円+税
この本は2016年「本屋大賞」受賞作である。ピアノ調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく社会が見守り、彼を育ててゆく同僚。そして努力が報われたという長編小説である。主人公はなかなか言葉では自己表現できず、営業マンとしての説得力がない田舎育ちの人間であるが、言葉で伝えきれないのなら音(ピアノ)で表せるようになればいいと、一所懸命仕事に励む。牧羊が盛んな山村から出てきた20歳の若者が根気よく、一歩一歩、羊と鋼を歩き続けるという物語だ。
この本の最後の方に書いてあったが、古代中国では羊が物事の基準だったと。それで、美しいという文字も善という文字も羊から来ているという。猛暑の折、新幹線で一気に読める。