タックスヘイブン、いわゆる租税回避地のことだが、このタックスヘイブンに日本法人の子会社等を置くと、現地の税率が低いことから、この子会社の利益を日本の親会社の利益と合算され、日本の法人税が課される。つまりタックスヘイブンに子会社を設立しても、節税では無駄であるということである。但し、実際に現地で工場を持つなど一定の基準を満たせば適用除外になる。シンガポールや香港ではそれも可能だが、ケイマンやガーンジー諸島などではそれも考えられない。
タックスヘイブン(租税回避地)の定義はと言えば、日本の法人税率の半分以下の国を指してきた。当初、日本の法人税率は50%であったから、25%以下の国や地域がその対象とされた。ところが韓国、中国、マレーシア、ベトナムなど25%を下回る国が続出したため、2010年度の税制改正で20%以下の国とした。
しかし、企業が負担する法人税は税率だけではない。さまざまな特典や恩恵を用意して世界の大企業を誘致し、自国への投資や雇用を喚起しようとする。例えばオランダでは資本参加免税があり、オランダの会社は子会社から配当については非課税、子会社株式の売却益にも課税なしであることから、パナソニックなど日本企業も法人登記するところが多い。
前にも書いたが、国は税金を安くすることによって、世界の大企業や富裕層を呼び込むことに必死である。
このほどイギリスが法人税率を20%に引き下げると発表した。これには日本政府も驚いた。そうなると、イギリスはタックスヘイブン国になるため、日本企業の英国子会社は英国で20%課税されたうえで、日本の親会社の利益に合算され、日本の法人税率38%課税される(二重課税部分は控除)。日本企業ではトヨタ、デンソー、三菱マテリアル、野村証券、ソニーなど、あまたの大企業が英国に持株会社や金融子会社など持つので、大慌てである。したがって急遽、財務省はタックスヘイブンの定義を18%以下にするかと考え出した。
さらに英国では自国の権益を守る意味からも、知的財産権から得られる収入への課税を僅か10%と軽減する「パテントボックス」という特例を持っていることで、先進諸国の大企業は英国に知的財産権を持つ子会社を相次いで設立している。ドイツやフランスなども、この英国の動きに追随する動きも見せている。
日本の場合は相変わらず、法人税率だけをとらまえてタックスヘイブンの定義をしているが、これはもう時代遅れも甚だしい。法人税収確保のためにだけ法人減税を行わないでいる間に、各国はグローバルな巨大企業の取り合いをしているのである。一人カヤの外なのだが、アップルやグーグル、アマゾンドットコムなど日本を見向きもしないが、それより日本を代表する巨大企業の本社が、ある日突然ヨーロッパに本社移転発表となる日が来ないではない。日本の新聞だけしか読まない人を企業のリーダーや官僚のトップに据えている時代ではない。
☆ 推薦図書 ☆
今野晴貴著 『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』 星海社新書 882円
最近、ファーストリテイリングの柳井さんが労働問題であちこち叩かれているが、本書は、問題は労働者が雇用や労働のことに関してあまりに無知だということからはじまって、過労死が続くのも労働者の無知からきているという。ブラック企業ももとはと言えば、労働者が自らの権利を知らないからで、日本型雇用とは何なのかを改めて問いかけている。