先ほど国税庁が今年の路線価を発表した。それによると、全国の平均変動率は前年比マイナス1.8%で5年連続の下落となったが、下落率は前年よりも1.0%縮小したとしている。路線価が日本で一番高いところは、28年連続で東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通りで、一平方メートルあたり2,152万円(坪約7,000万円)、大阪では阪急百貨店前の大阪市北区角田町の御堂筋である。
日本において、役所が発表する土地の価額は少なくとも三つある。公示価格、路線価、固定資産税評価額である。どれも同じ価格はない。公示価格は上がっても下がっても税収に影響ないが、固定資産税評価額はそれを基に固定資産税収入に直接影響するので、市町村は下げたがらない。
路線価は道路に面した1㎡あたりの評価額で、何のために路線価をつけるのかと言えば、相続税・贈与税のためだけである。しかも路線価は全国36万地点の宅地に付されている。毎年相続税がかかる財産を残して亡くなる人の数は4万数千人なので、ほとんどの地点の路線価は無駄になっていることになる。網の目のように全国津々浦々に張り巡らされた路線価、本当に実勢価額を反映しているのかは疑わしいが、少数の人間でよくこれだけ毎年夏に一地点の漏れなく発表できるのか感心する。一方、亡くなった人の相続税の申告で1㎡あたり、1割、2割異なるだけで何千万円も評価が上下し、死活問題にまで発展するので慎重に鑑定してほしい。
相続税法第22条に、土地は「時価」で評価するとある。この「時価」とは路線価なのである。ちなみに家屋の「時価」とは固定資産評価額のことである。日本の不動産の時価は、このように全て役所が時価を決定していて、所有主や第三者の鑑定の入り込む余地はない。同じ道路に面していれば全て等価である。隣が暴力団事務所でも、ペットショップでも、学校であっても皆1㎡あたり同じ時価なのである。不思議な国である。世界中のどこの国で、死んだ時の不動産評価を国が定めているところがあろうか。高い評価だと言うが、「お上」が決めたのだから従えだろう。
例えば、アメリカなどでは専門家に時価を鑑定してもらう。その鑑定評価が低いとIRSが思えば、違う鑑定士に評価させる。遺族がどの鑑定士に依頼したらいいかわからない時はIRSに鑑定士の選任を依頼し、IRSが紹介する。おもしろいのは、紹介された鑑定士の評価をIRSが却下することもままある。
固定資産税評価額も市町村が勝手に決めて、納税通知書が所有主に送付される。アメリカだと、その住宅を購入した価額の約1.2%が固定資産税だから、同じ所に同じような住宅があっても、昔から所有している人と最近値上ってから購入した人とでは、2倍くらいの差があるのはザラである。
相続税法も地方税法も日本では「時価」に対して税率をかけるとしているが、「時価」はもともとマーケットプライスであるのに、日本の「時価」は役人が決めるのである。したがって、路線価は前年比1.0%下落幅が縮小したとしているが、はたしてそうであろうか。銀座5丁目や阪急百貨店前の路線価は東西ナンバーワンの高いところだが、何十年も土地が取引されたことのない地域である。どうして時価がわかるのであろうか。国税庁に聞くと良い。答えは、それは「精通者意見価格」ですと返ってくる。
☆ 推薦図書 ☆
志賀櫻著 『タックス・ヘイブン』 岩波新書 798円
著者はもともと大蔵官僚で国際畑が長く、税には詳しい。本書は世界の富裕層が税逃れでどのような国を使って、どのように隠しているのかを詳細に歴史的に記述している。また、ヘッジファンドもこれらのタックス・ヘイブンを使って、いかに悪いことをしているのか。タックス・ヘイブンの特徴を(1)まともな税制がない、(2)固い秘密保持法則がある、(3)金融規制やその他の法規則が欠如していると定義し、それらを退治しようとするが、先進国そのものがそれらを必要悪としていることから、なくならないであろうとしている。