今、太平洋上のJAL機内である。便利になったもので、機中からパソコンができるのである。それはさておき、最近の与党税制調査会で議論の目玉は配偶者控除制度の見直しである。妻の年収が103万円を超えると夫の扶養者になれない。そうなると夫の所得税や住民税が大きく上がるので、主婦のパート労働等において、年収103万円以内に抑えるようにする。これでは女性の社会進出を拒んでいるようであるので、もっと緩和すべきだということの議論。一方、専業主婦も数多くいるので配偶者控除制度を全廃することもできない。
アメリカを見てみると、配偶者控除なるものはない。アメリカの税法は国税にあたる内国歳入法典(Federal Tax)に規定されているのと地方税がある。日本の地方税とは異なり、州ごとにかなり異なり、州の権限が強いことがうかがえる。例えば住民税がないネバダやアラスカ州、日本の消費税にあたるSales Taxも全くない州もある。司法関連の法律はほとんどが、国ではなく州が決める。信託法、会社法、LLC、パートナーシップ法などが州法である。したがって弁護士の資格も州ごとであり、ニューヨーク州の弁護士はカリフォルニア州では働けない。
なぜこうなったかと言うと、アメリカが独立したときは今の50州ではなく13州しかなかったが、連邦政府に多くの権限を集中させることを嫌がり地方分権化を図った。そして州により夫婦の収入や財産の持分割合が異なるようになった。大きく分けて、夫婦財産共有制の州と夫婦別財産制の州である。イギリスは夫婦別財産であり、日本と同様、夫婦であっても財布は別ですということである。一方、スペインやフランスは夫婦共有財産制であり、夫が稼いで取得したものも全て夫1/2、妻1/2、夫の収入も専業主婦が1/2、夫が1/2として申告する。アメリカは複雑で、夫婦財産共有制をとっているのはカリフォルニア、アリゾナ、アイダホ、ルイジアナ、ネバダ、ニューメキシコ、テキサス、ワシントンである。もともとアメリカ合衆国独立時の13州の法はイギリスの影響を受け夫婦別財産制であったものが、カリフォルニアなど、どんどん州が増える過程で、スペイン法やフランス法の地を加えていったのでそうなった。
1939年にアメリカでは夫婦合算申告(Joint Return)が開始されたが、夫婦双方に所得がある場合、逆に税負担が生じてしまう(Marriage Penalty)ので、独身または夫婦個別申告では、人的控除は1,000ドルであるが、夫婦合算申告の場合は2,500ドル控除できることとした。その後カリフォルニア州のような夫婦共有財産制の州では、夫婦それぞれの所得を2分の1づつ申告できることから、それ以外の州の住民に不公平が生じるため、1948年からアメリカでは夫婦合算課税が行われることになった。MR & MRS○○で確定申告書を提出するのである。実際には夫婦合算申告は所得を2分2乗する方法であるが、その背景にはアメリカの夫婦共有財産制がある。
日本の今回の配偶者控除制度の改正は、妻の年間収入が103万円から150万円に引き上げられただけであり、根本的な解決になっていない。配偶者控除制度の平成29年度税制改正で、はたして共働き夫婦と専業主婦家庭にとって不公平感が払しょくされたと言えるのであろうか。
☆ 推薦図書 ☆
里見清一著 『医学の勝利が国家を滅ぼす』 新潮新書 760円+税
著者の本名は國頭英夫。1986年、東大医学部卒である。他の著に「偽善の医療」などがある。
画期的な新薬が開発され、寿命が延びるのは大変よいことであり、医学の進歩である。しかし、その先に待ち構えているものに我々は慄然とせざるを得ない。爆発的に膨張する医療費は日本の財政の破綻を招き、次世代を巻き添えに国家を滅ぼすことにつながる。「命の値段」はいかほどか、我々はいつまで、何のために生きればいいのか。コストを気にしない医者、後期高齢者にどこまでお金を使うのかなどを論点に、新しい医療法は決して優れてはいない、この本に書いている問題は、著者にとってのメリットは皆無であり、ただ嫌われるだけの損ばかりであるが、今の若い子達に破産した国家と荒廃した医療現場を残さないためにも逃げるわけにはゆかないという思いで書いたという。厚生労働省必読である。巻末に作家・曽根綾子との対談を収録している。