ブログ

トランプの合法的節税、アメリカの富裕層の常識

繰越欠損金の控除制度というのがある。例えば個人で今年1000万円の損失が生じたとする。次の年で700万円の利益が生じた場合でも、税金を納めなくて済む。700万円-1000万円(前年度の欠損金)=△300万円である。つまり、欠損金が生じた場合は、次年度以降、黒字が出たとしても、それまでの欠損金の累計を上回ったときに、初めて税金支払いが生じるのである。これは繰越欠損金の適用という制度で世界中に存在すると言ってもいい。

 

ニューヨークタイムズによると、トランプ大統領は1985年に生じた欠損金によって、その後18年間税金を払っていなかったと報じた。1995年に9億1600億ドル(1100億円)の巨額の損失を生じたためだ。

 

しかし、日米ではこの扱いに大きな差がある。日本の場合は、個人がいくら大きな損失を被ったとしても、その損失額は3年間しか繰越すことが出来ない。赤字が残っていても、4年目からは通常の課税になる。

 

それに対しアメリカでは、例えば2017年度申告で損失が出たなら、2014、2015、2016年度に納めた税金を2017年度の赤字と相殺することによって、税金を還付してくれる(Carry Back)。そして、さらに今後20年間にわたる所得から、この損失が控除される(Carry Over)。しかも、この制度は株式譲渡損などのキャピタル・ロスについても認められているから驚きだ。

 

フォーム1099及び8949についてIRSに提出することを要件として、確定申告書フォーム1040のスケジュールDの付表としてCapital Loss or Gainの内容を開示することを条件に、以後20年間の繰越欠損金の控除が決められている。日本では株式譲渡損は株式譲渡益の範囲内でしか控除が認められていないのでは大違いである。

 

以上のことから1995年に巨額損失を計上したトランプは、以後20年間は税優遇が受けられたのである。つまり2016年分までは、その損失の恩恵を利用することができた。明らかにされた2005年分の確定申告書では1億300億ドル(130億円)の損失があったとの申告があるが、その額は1995年分の損失の繰越欠損金をいまだ引き継いだ残りなのか、新たに発生した損失なのかはわからない。

 

また、日本で所得2000万円超の者に義務づけられている「財産債務調書」では、彼の資産は35億ドル(4000億円)とライセンス価値をプラスすると100億ドル(1兆1000億円)としている。Forbs誌によると、トランプはデラウェア州に設立したLLCなどの会社はデベロッパーで、その顧客にロシアの高官や中国の首脳が多く含まれている。デラウェア州の法人だけに透明性に大きく欠けるうえ、大統領としての行動に公私をどれほど区別できるか問題としている。

 

日本であれば、森友学園程度であれほど野党が騒いでいる平和な国では、北朝鮮やシリア問題などそっちのけで、大統領のこうした私的部分を国会で取り上げるだろう。アメリカ人との価値観の違いだろうか。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
ジェイン・メイヤー著 伏見威蕃訳 『ダーク・マネー』 東洋経済新報社 3,600円+税
2009年11月20日のワシントンDCは、アフリカ系アメリカ人の大統領就任式を見ようと100万人以上の人々が祝賀に集い、盛大に祝った。一方、同月に西側カリフォルニアのパームスプリングのリゾート地に集ったのがビリオネア(資産10億ドル、つまり1000億円)以上の一族である。その集団はチャールズコークという一般市民によって呼び集められた。彼はカンサスに本拠を置く巨大企業のコークインダストリーズのオーナーである。弟はデイヴィッド・コークといい、兄は世界第6位、弟は世界第7位にランクされる大富豪である。いずれも資産は140億ドル(1兆5000億円)を下らない。
彼らのグループが目指すのは、個人と企業の税を大幅に下げ、貧者向けのサービスを最低限のものにすることである。2010年2月、オバマは失業者数百万人に対する失業手当を延長する案を提出したが、共和党の協力を得るために、ブッシュ時代の最大の懸案事項だった減税、つまり富裕層に有利で貧者には不利な法案を認めた。これは所得税の最高税率が39.6%から35%に引き下げられ、富裕層が大部分を持っているキャピタルゲインの税率は20%から15%に、その結果、富裕層の多くはミドルクラスやワーキングクラスの給与所得者よりも低い税率になった。全てがコーク兄弟の思い通りになり、コーク兄弟の命令に服しない共和党議員はほとんどいないが、その中で異例のやり方で立候補したドナルド・トランプは、彼らから仲間はずれにされた。トランプはツイートした。「コーク兄弟の金をせびりにカリフォルニアへ行く共和党候補者たち皆の幸運を祈る。操り人形じゃないか」。トランプ人気は操り人形ではない独立した候補者だったことである。

関連記事

  1. 納骨堂が脱税、逮捕
  2. 日米同時査察で誰が捕まるのか
  3. トランプ、ついにアメリカ連邦政府閉鎖
  4. ふるさと納税の不思議
  5. サッカー選手・イニエスタの脱税事件、その後
  6. タワーマンション投資に水を差す財務省
  7. ブログ掲載に関するお知らせ
  8. 富裕層直撃第1弾 来年度税制

アーカイブ

PAGE TOP