最近トランプ大統領はツイッターで”Amazon is causing great damage to tax paying retailers”、“Towns, cities and states through the US are being hurt – many jobs being lost!”、「アマゾンは米国全土の小売業界を傷つけ、しかもアメリカ人の多くの仕事が失われている」とし、アマゾンを非難することが多くなった。トランプ大統領の言う”Great Damage”という言葉をアメリカの政治家はめったに使わず、ホワイトハウスでは、Too Big and Powerfulになったというという表現をする。しかし彼が過激な言葉で注目を集めるのは今回に限ったことではない。
Apple, Alphabet, Microsoft, Facebook, Amazonは世界的にも大きくなりすぎ、日常生活の中でなくてはならない存在となったため、会社を分割するべきだという声も出始めている。昨年の大統領選では、トランプは、「アマゾンは市場を独占している、もし大統領になったら反トラスト法違反で訴える」と公言していた。アマゾンは実際全e-book売上のおよそ70%を占め、米国のe-commerce売上の30%を占める。2016年2月の共和党大統領候補選の中でトランプは”Believe me, if I become president, do they have problems. They’re going to have such problems.”と述べアマゾンを問題視する発言を度々行っている。ただ、アメリカでは大きなマーケットシェアを持つからという理由だけで違法性まで問われない。
6月にはアマゾンは、アメリカで私がいつも買い物に行く自然食品のスーパーで、日本でいえばマルエツ、成城石井程度のWhole Foods Market Inc.を買収すると発表した。反トラスト法には違反をしていないというのが専門家の大方の意見だが、議員の中には聴聞会を開くべきとの意見も出ている。
何がきっかけでトランプ大統領がアマゾンを批判するツイートをしたのかは原因不明だが、トランプはBrick–and-Motor Chainを、特にアパレル関係を中心に小売業の仕事が急速に減少していること、ショッピングモールへ足を運ぶ人が減っていること、買い物客がe-commerceへ大量に流れていることを懸念している。実際、アメリカでは小売業者が次々に破綻しており、最近ではPayless, Gymboree, HHGregg, RadioShackといったところが挙げられる。また、百貨店ではMacy’s, Sears, JC Pennyなどが全米で多くの店舗を閉鎖しており、今年は過去最も閉鎖店舗数が多くなるようだ。一方アマゾンは2018年までに10万人を雇用すると宣言していて、百貨店で解雇された人たちを雇用するとも言っている。
トランプ大統領はアマゾンの税金についてもツイッターで触れている。アマゾンは以前、日本でも問題になったが、消費税を徴収しないことで問題になった、アメリカでは消費税は州税なので、その州に支店がないと支払い義務がないとしていた。しかし今ではアマゾンの第三者ベンダーを通じた売上を除いては消費税も支払われている。
トランプはアマゾンだけでなくアマゾンの創業者Jeff Bezosが所有するワシントンポストもターゲットにしている。2015年12月に「Jeff Bezosはワシントンポストをアマゾンの課税額を低くするためのTax Shelterとして利用している」と非難した。しかし、アメリカではワシントンポストはJeff Bezosが直接所有されている思われがちだが、実は、ある持ち株会社により所有されていてアマゾンともJeff Bezosとも直接出資関係はない。 トランプの勘違いである。
トランプはもともと父親が不動産業で成功を収め、その不動産業を引き継いだ関係で資産家となっているが、Jeff Bezosはプリスントン大学で電気工学とコンピュターサイエンスで優秀な成績を収め、ウオールストリートの投資銀行、ヘッジファンドを経てアマゾン社を設立した起業家でありトランプ氏とは正反対である。今年7月にアマゾンの株価が最高値に達した際には、資産額でウオ-レンバフェットやビル・ゲーツ氏を凌ぎ世界一の資産家になっているのは日本では知られていないようだ。Jeff Bezos率いるワシントンポストはNYタイムズと同じく、毎日のようにトランプを散々叩いているので、トランプ大統領にとっては鬱陶しい存在なのである。腹が立ってしょうがないのである。
安倍首相も朝日新聞や新潮社を叩けば良いと思うのだが、そこまでの度胸はないのであろうか?
☆ 推薦図書 ☆
村上世彰著 『生涯投資家』 文藝春秋 1700円+税
著者は有名な村上ファンドの運用者で元通産官僚。ライブドアの堀江貴文が彼に言った「ニッポン放送の株式を5%以上買いたい」の言葉がインサイダー情報に該当するとされ、その情報を元に株の取引を行い利益をあげたとして村上は逮捕された。「私は東京大学で法律を学んで役所に勤めた人間だから、ルールを遵守する世の中であってほしいと考えている。資本主義のルールを守らなければ国の経済はよくならないし、経営のルールであるコーポレート・ガバナンスを守らなければ企業の存続する意味がない。しかし日本の社会では、違う実態がうごめいていた。そこを私は正し、日本の社会を変えたかった」「私は制度を作る側にいるより、プレーヤーとして日本を変えたいと思った。制度を作っても、実践するプレーヤーが日本にはいなかったからだ。自分にしかできない仕事はこれだと思った。そこで通産省を辞め、村上ファンドを作った」としている。この本を読んで思ったのは、かつての仕手集団、誠備グループの加藤と酷似している。要はいかに儲けるかである。ファンドはファンドである。企業を作らない。しかしオリックスの宮内代表をはじめ、日銀の福井総裁など当時の実名が数多く出る。出された人々の迷惑顔が目に浮かぶ。
本には「村上ファンド」を率いて日本に旋風を巻き起こした男の最初で最後の告白としているが、美化した「私の履歴書」でもある。