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アメリカの新税制で富裕層の動きが活発

本日、アメリカの上院で税制改正法案が可決されたと報道があった。下院はまだである。日本人はアメリカの税制法案成立の過程をほとんど知らない。日本では与党が法案骨子を作成し、財務省が法にし、1月から始まる通常国会で論議をし、3月末に終了する国会で衆参両院の賛成で成立する。アメリカは上院と下院がそれぞれ法案を別に作る。相違点については、さらに上院と下院で協議し、妥協点を見出し再度議会に諮らなくてはならない。現在審議中のなかで上下両院が一致している大きな改正がある。それは州税・地方税の所得控除を認めないというもの。

 

日本では、地方税である住民税は昔から控除ができない。しかしアメリカでは、住民税や固定資産税などの控除はできるので、富裕層にとってはありがたい。ところが、この州税等(State and Local Taxes = SALT)は州によってまちまちで、最も高い州はニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット、カリフォルニアの4州である。私もカリフォルニアが納税地だが、他州に比べて高いのに驚かされる。これらの州に住む富裕層は、高い住民税でも所得控除されるので連邦税が安くなる分、まだ我慢ができた。しかし、それが控除できなくなると大問題である。特にニューヨーク州やコネチカット州には多くのヘッジファンドが集まり、彼らの平均年収は100万ドル(1億1000万円)を超えている。

 

アメリカ富裕層は税に敏感である。州税のない所に移住しようとする。既にAppaloosa managementがニュージャージー州からフロリダ州マイアミビーチへ移転し、コネチカット州にあったTudor Invest Corpもフロリダ州パームビーチに移転、またSears Holding Inc CEOも彼のヘッジファンドをコネチカット州からマイアミに移転。しかし、移転された州はたまったものではない。Appaloosa managementは州税を100万ドル以上払っていたので、ニュージャージー州は財政的にも大きな損失である。

 

この税制改正案に共和党のアリゾナ州のジョン・マケインが賛成に回ったが、財政悪化を懸念する3人の上院議員が反対している。上院は共和党が52名、民主党が48名。例え2人が反対しても、副大統領のペンスが賛成すれば過半数となる。しかし、既にフロリダ州の不動産価格が上昇している。

 

一方、相続税については、下院案で基礎控除(日本は4800万円)は現在の545万ドル(6億円)、夫婦合算で1090万ドル(12億円)を2倍にして2025年廃止、上院案では廃止はしないが、基礎控除は2倍にする。なんと富裕層に対し国はフレンドリーなのか。

 

今アメリカの関心事はSALTの控除である。それによって富裕層大移動が始まるのかどうか、見ものである。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
高田明著 『90秒にかけた男』 日本経済新聞出版社 850円+税
著者はご存知、ジャパネットたかた創業者の高田明氏である。氏は長崎の一介のカメラ店主だった。わずか10年ほどで「TV通販王」として一世を風靡するようになる。なぜ最短90秒という枠の中で、自らメッセージを発し続けてきたのか。今この一瞬一瞬を全力で生きる。中途半端に過ごすのではなく、一生懸命に今を積み重ねていけば、常に自己更新して成長できる、としている。
MC(司会)の力、井上ひさしの言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでもゆかいに」というのがある。MCも全く同じ。どのように緩急をつけ、話を展開させれば商品の魅力を伝えられるかが常に試されている。しかし「伝える」というときには、「誰に」伝えるかが大事である。ジャパネットはなぜ、シニアの心をつかめるのか。そこにターゲットを絞っているからで、シニアにこそ老後の楽しさ、生きがいのために使って欲しいというメッセージを出し続けたのである。
著者は創業期より朝早くから夜遅くまで、瞬間、瞬間で考え続けてきた人生であった。引退した今だから伝えられることを満載している。

 

 

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