昨年末、アメリカ連邦裁判所が発表したところによると、昨年、サンフランシスコに本社を置き2千万人もの顧客をもつ仮想通貨取引業者であるCoinbase社に対し、顧客リストの開示命令を出した。その結果、IRSは2018年3月16日までに、2013年から2015年までの間で2万ドル以上の売買及び送金、入金をした1万3千人ほどの口座につきデータを入手したという。既に仮想通貨保有者の中には、刑務所行きを避けるために過去の脱税に使用した口座を自発的に開示している者もいて、罪一等を減じる効果を期待している。税法専門の弁護士によると、2009年にスイス銀行の秘密法を破りオフショア口座を使って脱税を図った5万6000人もの脱税者に対し、110億ドル(1兆2000億円)もの課税をしたケースに似ているとしており、仮想通貨保有者はIRSから逃げ隠れできるとは考えるべきでないと警鐘を鳴らしている。
仮想通貨については昨年、価格高騰に伴い多くの投資家が利益確定の売却をしているため、会計事務所も申告書の作成を行う際には、仮想通貨の売却については報告するようクライアントにうるさく言っている。このため今年の申告では、それほどの投資家でない人たちも怯えているあり様である。IRSは仮想通貨の全てにつきガイドラインを出しておらず、グレーな部分では納税者の好ましい解釈ができる余地があるかもしれないが、利益を隠すことができるという余地はほとんどないと言ってもよい。
また、IRSは先週の金曜日に納税者に対し、仮想通貨売却益の申告を忘れないようわざわざ通知を出した。申告漏れがある場合には税務調査が行われ、ペナルティや利息支払いが発生すると言って脅している。極端なケースになると刑事罰が加えられ、脱税の場合には5年以下の懲役及び25万ドル以下の罰金、故意ではないが間違いのある申告書を出した場合には3年以下の懲役及び25万ドル以下の罰金に処せられると言っている。脱税に対する刑罰の重さは日本の比ではない。
2014年にIRSはNotice2014-21において仮想通貨をドルや円のような通貨ではなく、モノ(Property)であるという通知を出している。株式や不動産のような投資物と同等だとしている。投資家は1年以上保有している仮想通貨を売却し利益を出していれば、長期のキャピタルゲインとして投資家の収入レベルにより税率は0%,15%,20%もしくは23.8%となる。また、1年以内での売却で利益が出ている場合の税率は高くなり、その投資家の所得税率と同じ税率で課税さる。但し、損が出た場合は3000ドルまで控除でき、未使用部分の損については将来繰越できる。
仮想通貨が投資としてではなく、自宅のように自分が使用するもので、売却で利益が出ている場合は、その利益は課税され、損が出た場合は控除できないことになるが、IRSはまだこの分野で細かいガイドラインは出していない。
課税が発生するのは仮想通貨を現金に交換したとき、もしくは仮想通貨を使い食事や車を購入したときで、これは受取人が仮想通貨を受け取ったときも同じである。これらの仮想通貨で支払を受けた受取人は、課税収入として申告を行う必要がある。仮想通貨で給与を払うときも雇用主は従業員に対しペイロール税やW-2の発行、業務委託の場合はForm1099の発行、個人事業主の場合はSelf-Employment Taxを支払う必要がある。
また、同じ仮想通貨どうしの交換、例えばBitcoinへのEtherへの交換は2018年1月1日以降では課税取引になる。2017年12月31日までに行われたLike-Kind Exchangeについては、IRSは何も言っていないが、専門家の中にはForm8824を出せば非課税取引になるのではないかとも言っている。
このように、仮想通貨だからと言ってあらゆる税金から逃れるというわけではない。基本的には通常の税法に則った取扱いが必要になり、いよいよ本腰になったIRSは怖いものがある。今回のCoinbase社からのデータをもとに、芋づる式に大きな脱税が発覚することは間違いないのでメディアは非常に注目している。
一方日本は脳天気で森友学園問題に明け暮れ、平成30年度税制についても仮想通貨は一行も出てこない。仮想通貨問題は何もアメリカだけの問題ではなくボーダーレスに取引されるのである。
☆ 推薦図書 ☆
奥村眞吾著 『こう変わる!!平成30年度の税制改正』 実務出版 1852円+税
ご存知、毎年出版している自画自賛の著である。
安倍内閣は5年間、デフレ脱却と経済再生にかけてきたが、これを後押しする強力な武器は税制である。アメリカではトランプが大胆な減税策を打ち出した。一方、日本は、大企業については「一人あたり3%の賃上げ」と「減価償却費の90%以上を国内設備投資」をした企業にだけ、増加した賃金総額の15%を税額控除する。その結果、20%強の実効税率になるとうたい上げた。働き方改革で残業がうるさく言われるなか、一人あたりの賃金は上がるのか、また、生産年齢人口の数が急減するなか、一人あたりを満たしたとしても全体の賃金総額が上昇するのか。経団連でさえ、はたして何社が該当するのか疑問を呈している。
個人課税で言えば、サラリーマンの給与所得控除が年々縮小して、上限の収入が850万円となった。年収850万円以上のサラリーマンにとっては増税しかない。公的年金控除も縮小する。そのなかで、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予の特例が大幅に改正され、中小企業にとってはありがたい。また、一般社団を使った税逃れの防止や小規模宅地等の規制も行われ、国際課税にもメスを入れた。
この本一冊あれば今年の税制は全てわかる。図解、例題ありで誰でも理解できる本である。