平成4年に「生産緑地法」なる法律が制定された。これはどういうことかと言うと、昭和の時代、都市圏で農地を所有している者が亡くなると、相続税が大変で、とても作っている農作物では税金は払えない。ところが当時の相続税法では、その農地を宅地化せず、そのまま農業を20年続けるとその農地にかかる相続税はゼロになった。従って偽装農家が続出し、農地に栗畑やみかんを植えるだけで農地として認定されたのである。そして20年後に宅地にしてアパートを建てたり、売却した。
相続税を逃れた上で多額の所得を得ていた。つまり偽装農家が都市周辺に多くあった。そこで相続税を免れる農地は「生産緑地」として20年ではなく、終身、営農と30年間の売買禁止の措置がとられたが、三大都市圏の農地は生産緑地として指定されると、固定資産税や相続税などで大きな優遇を受けた。しかし、平成4年(1992年)に生産緑地として指定を受けた農地は、30年経過した平成34年(2022年)には売買可能となる。そうなると三大都市圏では大量の宅地<元農地)が売却可能となり、地価を下落させ、住宅の家賃相場も下がるという。いわゆる2022年問題と言われるものだ。
農地を所有する地主は、生産緑地の指定を受け続けるか、それとも生産緑地の指定を解除して宅地転用、売却の方向に行くのか選択しなければならない。生産緑地の解除に踏み切れば、地価の高いところにある農地は宅地とみなされ、数億円規模の相続税と利子税を払わなければならないが、その農地を売却することによって得られる価値の方が大きいかもしれない。生産緑地をそのまま継続するとなると、自分の子たちがはたして農業を続けられるかといった問題が残る。
生産緑地が比較的多い東京の三鷹市。少子高齢化で今後、アパートの需要は高まるだろうか。2020年の東京オリンピック後である。大和ハウスや積水ハウスなど大手住宅メーカーがどう出るのか見ものである。大手住宅メーカーがこれらの生産緑地を購入の方向に進めば一気に大量の農地が宅地化し、売却し、賃貸住宅が建てられるだろう。生産緑地を継続したとしても、はたして子が喜ぶか。平成4年に生産緑地法が制定された時、このような問題は提起されなかった。目先の問題の解決にだけ急ぐ政治家、官僚のツケが今めぐってきた。
☆ 推薦図書 ☆
ケネス・シーヴ、デイヴィッド・スタサヴェージ著 立木勝訳 『金持ち課税』 みすず書房 3700円+税
この本の原題は“TAXING THE RICH”である。あのトマ・ピケティが絶賛している。「素晴らしい本だ。包括的でありながら読みやすい形で、前世紀に、欧米と日本で、所得と遺産への高い累進課税がどのように推移したのかを解いている」と。日本の累進課税は世界に類を見ない。これは「ねたみ税」と私は言っている。20世紀の高所得者に対しての高課税は民主主義の影響だったのか、不平等への対応だったのか。もともと富裕層への高課税は、国民が、国家は富裕層に特権を与えていると考え、公正な補償により富裕層に他の国民より多く課税するようにした。これは、1914年に第1次世界大戦が勃発した時に、国民が徴兵される中、金によって徴兵を免れたのが富裕層だった。公平に資本家階級にも同様のことが要求される。戦争の負担が平等でないのなら、富裕層は重税を課せられるということだった。しかし今、大戦争がなく、富裕層への高課税は新たな既存体制となり、富裕層への課税は「公正」だと何の説明もなしに主張されている。日本はその典型だが、平成31年度税制でも富裕層課税はますます重くなってゆく。