私は今、アメリカ合衆国に向かっている。着く頃は中間選挙の真只中だ。
CRS(Common Reporting Standard)、いわゆる金融口座の共通報告基準は世界102か国が加盟し、その国の非居住者、つまり外国人の口座情報を交換する制度である。日本も今年から、これに参加し先月情報を入手した。例えば、日本からシンガポールに「田中一郎という名前の口座はありませんか?」と問い合わせれば、「シンガポールの○○銀行に××ドル、△△証券に××ドル」という答えが返ってくるというシステムである、あるいは、「日本のパスポートで口座を開設した人の名前を全て知らせてください」と香港政府に問い合わせれば、それも回答してくれるというものだ。日本の国税庁によれば、先月に入手したそれらの情報は何と55万口座、国数は64か国、その中には当然タックスヘイブン地も含まれている。地域別ではアジア・オセアニアが29万件、ヨーロッパが20万件、北米・中南米が4万件、中東・アフリカが1万5千件。逆に、外国から日本に問い合わせがあった日本非居住者の情報を9万件開示したとしている。
このCRS制度で得ることができる情報は①氏名、②住所、③口座残高、④利子・配当の年間受領額である。日本は世界に類を見ない富裕層バッシング国である。55万件の価値は大きい。
日本人の確定申告では、海外に5000万円以上の財産を所有している者に対して、その海外資産の明細の提出を義務付けている。いわゆる「国外財産調書制度」。しかし、国外財産が5000万円以上あるとして、この国外財産調書を提出している者は、僅か9000人しかいない。いかに税逃れを企んでいる人が多いことか。AIの時代である。これまでとは異なり、国税庁もこれだけの海外口座の情報が入るとは思わなかったようだ。ある職員は、「これは宝の山」だと言っている。9000人しか国外財産調書を提出しない現状は、まさに「税務署をなめている」のである。国税当局は「長年の悲願である55万件は大きな武器になる」と言っている。我々も大いに税逃れを捕捉することに期待したい。
しかしCRSに参加していない唯一の先進国、アメリカ合衆国。この国に口座開設をしても、日本の国税庁は情報を知り得ない。アメリカは昔から、アメリカに投資してくれる外国人は大歓迎である。脱税したカネでも、カネには色はない。TPPと同様、CRSも今後の課題ではある。
☆ 推薦図書 ☆
山田周著 『劣化するオッサン社会の処方箋』 光文社 760円+税
「オッサン」の定義とは何だろうか。著者は特定の行動様式・思考様式を持った特定の人物像としてとらえている。それでは、オッサンをどう定義しているかというと、①古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒む、②過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない、③目上の者に媚び、目下の者を軽く見る、④よそ者や異質なものに不寛容。
このようなことから、組織のリーダーは構造的・宿命的に経時劣化する。数が最も多い三流から支持された二流が大きな権力を得る。そして二流の人間は、一流の人間を恐れて抹殺に奔走する。だから扱いやすい三流が後を継ぐ。こうして組織の世代が代わるごとにリーダーの資質が劣化していくのである。
そこで、どうするか。スキルや知識などの「人的資本」と信用や評判といった「社会資本」を厚くすることで、自分の「モビリティ」を高めるしかない。モビリティとは、今の生活水準を維持できる能力であるとしているが、このモビリティを高めることこそ、汎用性の高い知識や社会の人脈を自分の資産として積み上げることができると言っている。