トランプ政権下で、このほど2019年度税制改正の発表があった。注目すべきは相続税。日本の相続税の基礎控除は(3000万円+600万円×法定相続人)なので、標準世帯だと4800万円となり、それ以上の財産を残して死ぬと相続税の課税対象となる。
アメリカの来年度の相続税の基礎控除額は1140万ドル(13億円)に増加した。2018年度は1118万ドルなので、約22万ドル(2500万円)大きくなった。日本の相続税とはケタ違いに富裕層は優遇されている。普通はアメリカでは夫婦合算になるので、2280万ドル(26億円)の相続財産まで税金がかからない。贈与税の基礎控除は1万5000ドル(170万円)、夫婦合算で3万ドルを使えるので4人の孫に1人3万ドル、計12万ドル(1400万円)までの贈与であれば贈与税はかからない。当然、夫婦間の贈与は無制限で、いくら贈与しても贈与税はかからない。
しかし、アメリカでも、26億円の基礎控除を超える財産を持っている者はごまんといる。この人たちには相続税対策は必要である。アメリカの金持ちは日本とケタが違う。財産の額も人数も、である。
この26億円の非課税枠があったとしても、その額を超える人たちは数え切れない。日本の相続税率の累進課税と異なり、アメリカの相続税法では一律40%の税金がかかる。100億円の遺産だと(100億円-26億円)×40%であるから、30億円の相続税がかかる計算になる。26億円の基礎控除は日本でいう租税特別措置法なので期限付きで、2025年に終了となる。共和党はその後、相続税そのものをなくせと言っているが、この前の中間選挙で、民主党が下院の過半数を取ったことにより、実現性は不透明となった。
日本では今や、相続税の申告件数が年間10万件を超えるようになった。アメリカも2000年に申告件数が5万2000件あったが、相続税は所得税控除後の財産にかかるので二重課税だとの疑いもあり、その後減税され、2013年には4687件にまで減少した。2018年度にはおそらく全米3億6000万人人口の国で、相続税がかかる件数は1890件となるとIRSは見ている(日本との差が比べ物にならない)。ただ、26億円の非課税枠を使い切るには相続税の申告書を提出しなければならないし、夫婦間で基礎控除額を移転するために“Portability”の手続は必要だ。
見落としがちなのは、上記は国税(連邦税)で、州によって独自に国税とは別に州の相続税がかかる場合がある。18州(ワシントン、オレゴン、ミネソタ、ネブラスカ、アイオア、イリノイ、ケンタッキー、ペンシルベニア、ニュージャージー、ニューヨーク、ロードアイランド、マサチューセッツ、バーモント、ハワイ、メリーランド、メーン、コネチカットとワシントンDC)である。特にメリーランドは被相続人だけではなく、相続人にも課税されるので注意が必要だ。このように見ると、私のオフィスのあるカリフォルニア州は、州の相続税はない。歴代大統領や実業家のほとんどが引退したらカリフォルニア州に住むという理由は、気候の良さだけではあるまい。
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