当社の米国拠点、ロサンゼルスで大騒ぎになっている。ギグ(日本の非正規雇用というのだろうか)の取り扱いについて全米で初めて法律ができた。ウォール・ストリート・ジャーナルやフォーブスによると、今週カリフォルニア州議会でAssembly Bill 5が議決されたとの報道があった。この法案は、ギグワーカーを業務委託者扱いから従業員として扱うようにするもので、UberやLyftなどギグカンパニーは猛烈な反対をしていた。
この法案では、カリフォルニア州の会社では、その会社のビジネス以外で働く者を業務委託者とみなすとする。反対に働き方に関し会社がコントロールをしている、もしくは会社の通常のビジネスの範囲内の仕事をしている場合には、その働き手は業務委託ではなく、従業員としてみなされるというものだ。アメリカではカリフォルニア州での動きは他州への指標となるので、この動きが全米に及ぶのも時間の問題である。
この法案を起案した議員は、「ギグエコノミーというのは、これは単に労働者を従業員として分類をしないというだけで儲けるシステムを作っただけで、本来かかるべきビジネスコスト(社会保険や401K)を消費者に転嫁しているだけだ、このようなことは止めなければならない」と述べている。業務委託者を従業員化することで、アメリカの会社は連邦税及び州税の源泉徴収、最低保障賃金、健康保険、ペンション、労災、失業保険、社会保険等のコストが発生する。ギグカンパニーはこれらのコストを避けることで大きくなり、実際UberやLyftも株式の上場を果たしているわけだが、赤字続きでもある。この法案通過による運転手の給与が発生すれば、Payroll Taxを納めることになり、赤字でも税金は納めてくれるということで政府は大満足だという図式になる。
過去には、会社は業務委託者として扱いながら、訴訟により、そうではないと裁判所が判断した例も多くある。金額の大きいものでは2015年にFedExが2億2800百万ドル(300億円)で和解した例もある。裁判所が長期にわたる訴訟の末、2300人のドライバーは業務委託ではなく従業員である判断した。これは、会社がどのように業務委託者であると主張しても、法律上は従業員であるとされる例としてアメリカでは規範となっている。
実際ギグカンパニーでないような会社にも影響が出てきそうである。例えば、通訳会社などで雇っている通訳は通常従業員ではなく業務委託としているわけだが、通訳を従業員として雇うとなるとビジネスとして成立しないと困惑している。またワインメーカーも同様だ。通常ワインメーカーは葡萄の輸送、ブドウ畑の土壌の研究および分析ならびに開発、気象パターンの研究、その年の需要が高くなると予想される葡萄の種類の予想等、外部の専門家に業務委託するわけだが、彼らもまた従業員として扱う必要があるのか困惑気味だ。
ただし、今回の法律では医者、弁護士、建築家、保険外交員、会計士、不動産業者は除外されている。UberやLyftはこのままでは運賃の値上げにつながり、結局はタクシー会社と同じになるという危惧がある。今後、今回成立した法案に対し自分たちのビジネスも控除対象にするよう巨額な予算で戦うことを表明しており、まだまだこの戦いは終わりそうにない。日本のように厚生労働省がすべて決定する、つまりお上が裁断を下す国でないため厄介でもある。
☆ 推薦図書 ☆
週刊文春編 『私の大往生』 文藝春秋 820円+税
大往生を広辞苑で引くと、「安らかに死ぬこと、少しの苦しみもない往生」とある。そんな理想的な死のかたちとはどういうものなのか、人生を達観した14人に尋ねた。死への恐怖、印象に残った死に方、人生への思い、人生のしまい方を考える本である。中でも京都大学卒の著名医師、中村氏の章は考えさせられる。彼は「大往生したけりゃ医療とかかわるな」が大ベストセラーになった。人生を「往き」と「還り」に分け、還りに入ったら生き方を変えるべきだと。その目安は60歳、還暦である。ここを折り返し地点とし、この折り返し地点は繁殖期の終わりだとし、これ以上は、「早すぎる死」はない。氏は繁殖期を過ぎてから女房と口喧嘩もしなくなった。向こうが嫌なことを言って来たら、女房の死ぬことを考える、喧嘩して帰ってくると女房が死んでいる、それを念頭に考えると落ち着く。
氏は「非常に良い病気と考えるのは、がんである。手術しないで放置されたがんは、死ぬまで痛みがない。自然死である。がんのよいところは、最後まで意識があるので身辺整理ができる、親しい人や身内にお礼とお別れができるということだ。下手に手術してしまえば、早期発見だとしても再発に怯え、抗がん剤やつらい生活を送らなければならない。
同感である。