経済刺激対策法案が、本日トランプ大統領が署名し成立した。規模が違う。日本の100倍以上、日本のGDPのほぼ半分である。過去二つほどコロナ対策法案が成立しており、最初の法案はヘルスケアに関わる助成金、2番目はコロナウイルステストの無償化及び有給休暇拡大に伴う予算だったが、金額的には大きくなかった。今回の法案では大企業から中小企業、個人から病院まで多岐に渡る救済措置を盛り込んでおり、予算が2.1兆ドル(230兆円)になる。
この予算は大きく3種類に分けられる。ひとつは事業会社向けローン8350億ドル(90兆円)だ。これはFRBを通じた事業会社向け政府保証及びローン4540億ドル(50兆円)、中小企業向ローン3490億ドル(40兆円)、航空会社及び貨物会社向助成金320億ドル(3.5兆円)となっている。2番目は補助金3400億ドル(39兆円)だ。これは公共交通機関に対し250億ドル(2.7兆円)、病院及び退役軍人病院向け1170億ドル(13兆円)、その他補助金として1980億ドル(2.1兆円)となる。3番目は直接的な救済金9510億ドル(105兆円)である。これには国民救済資金3010億ドル(35兆円)、税金繰り延べ及び延長に伴う予算2210億ドル(24兆円)、失業保険2500億ドル(28兆円)、州に対する救済1500ドル(17兆円)、航空機及び貨物会社に対する救済290億ドル(3.2兆円)となる。
今回注目される3番目の直接救済3010億ドル(33兆円)の予算は国民への現金支給だが、独身で1200ドル(13万円)まで、夫婦合算申告で2400ドル(26万円)までとなる。さらに子供一人につき500ドル(5万5千円)が支給される。しかし、当然これらの支給対象者には所得制限があり、独身で収入が7万5000ドル(800万円)、夫婦合算で15万ドル(1600万円)までの者しか全額受け取れない。この金額を超えると減額されていき、独身申告者では9万9000ドル(1100万円)、夫婦合算申告者では19万8000ドル(2200万円)でゼロとなる。今回この救済が適用されるのはアメリカで働くことが出来るSocial Security番号を持ったものに限られるとされている。当然である。財務長官は3週間以内には小切手を各世帯に送りたいと言っている。また、現金支給額は2019年の申告もしくは、2018年の確定申告の数字に基づいて計算されることになっている。
失業保険だが、今回は通常の従業員でない、例えばギグワーカー、フリーランスにもその救済を広げている。さらに通常の失業保険金額に加え毎週600ドル(7万円)を上乗せし、4か月継続させるというもので、これは共和党議員から、通常で働いてもらっている給与よりももらえる人が出て来ると反対もあったが、民主党が押し切った形となっている。
大企業に対する救済金額は4540億ドル(50兆円)にも及ぶが、当初は財務長官がその融資先を決める仕組みだった。しかし、財務長官の贔屓先の企業に救済が偏ることを危惧した民主党は、監察官と監視委員会を設置し、融資先につき監視することになった。この内170億ドル(1.9兆円)は国家安全保障に関わるGEや Boeing等の企業救済に割り当てられるが、Boeingだけで600億ドル(6.6兆円)の救済を求めており、全く不足するという見込みだ。
50州への救済資金は全体で1500億ドル(16兆円)となっている。NY州知事はNY州への割り当ては40億ドル(4500億円)だとしているが、この救済金額には市も含まれ、死者が増すニューヨーク市だけでも10億ドル(1100億円)は必要だとしており、市の予算は別にして欲しいと訴えている。
民主党は、これらの救済資金がトランプ大統領、ペンス副大統領、国会議員、米国連邦行政府の人間及び彼らの子供や配偶者がかかわっているビジネスに対して利用されることを一切禁止する文言を今回の法案に盛り込んでいる。
米国GDPの1割という大規模救済になるが、その財源をどこに求めるかという議論は全く行われず、今回の法案が成立した。危機感の表れと言えるが、今回FRBの金融政策が無力であったことが証明され、今後企業に膨大な公的資金が入ること、また、政府は大規模な財政赤字を抱えることになる。長期的にみれば米国資本主義にマイナスの影響を与えることは否めないが、アメリカに比べて日本の迅速性の無さと、救済規模のあまりにも落差があることに驚愕したのは私と政府だけではあるまい。
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