国税庁は、昨年度のマルサ、査察実績を公表した。内偵に内偵を重ね、脱税犯を捕まえる。映画やテレビでは捜査一課と同じく、国税局査察部は外から見る分では興味がある。査察部の発表によると、1年間に165件の査察があった。そのうち116件を告発したのである。その脱税総額は93億円となる。
昨年度、査察から告発があった脱税事件で、一審判決が言い渡されたのは124件にのぼる。特筆すべきなのは、そのすべてに有罪判決が出されたのである。刑事事件を扱ったテレビドラマに、99.9%の確率で刑事告発された者の有罪判決がでるというものが、松潤の主演であったが、脱税事件で国税局査察部に告発された者の有罪率は何と100%ということだ。世界一である。
そのうち刑務所に送られる、実刑判決が出されたのは5人、その中で最も重い実刑判決は、査察事件単独にかかるものが懲役10年、他の犯罪と併合されたものが懲役9年だった。税務署を舐めないことである。極道などは警察よりも、むしろ税務署を怖がる。なぜなら警察は刑務所に行きさえすれば片付くが、税務署はそのうえ全財産を持ってゆくからだという。
脱税した財産の隠しどころだが、昨年は大口案件としては、レンタル収納スペース内のスーツケースの中と、自宅内の和ダンスに作り込まれた隠し戸の中に、巨額の現金が隠されていた。私にしてみれば、あいも変わらず素人の手口である。
昨年度の特筆すべき事項としては、国外財産調書に初めてメスが入ったことだ。2014年に、国外に5000万円以上の財産を所有する者は確定申告で「国外財産調書」を提出しなければならない、という法律が公布された。昨年もOECD加盟国がお互いの金融情報を交換するという国際規約(アメリカだけが非加盟)で、日本人が海外に所有する預金口座は50万件を超えていると公表されたのである。ハワイだけで7万件(アメリカは非公表)を超えているといわれる。これに対し、確定申告で毎年海外財産調書を提出している人はわずか9000人である。いかに日本人の多くは納税意欲がないのかがわかり、そして、海外で隠そうとしているかもわかる。
今回の査察で初めて国外財産調書にかかる事案で摘発された者がいるが、運が悪いのか、バカなのかはわからないが、金額にして、たかだか海外預金7300万円。その7300万円を正当な理由なく国外財産調書を提出期限までに提出していなかったため、国外財産調書不提出にかかる罰則規定を適用した。これを見て不提出の富裕層はどう思うのだろうか。
☆ 推薦図書 ☆
松本清張著 『松本清張の日本史探訪』 角川文庫 680円+税
久しぶりの松本清張である。東京駅で新幹線に乗る前に買った。氏の本はほとんど読破していると思っていたが、初めてのタイトルなので興味をそそった。対談である。ユニークな史観と大胆な発想を活かし、歴史の隠れた真実を鮮やかに発掘して見せた著者が、作家や哲学者と語り合う。
古代国家成立の謎に挑み、時の権力者の政治手腕を問い、国家的事業の裏側を読み解き、日本史の空白の真相に迫るという本だ。「邪馬台国」「大仏開眼」「本能寺の変」「豊臣秀吉」「大岡越前守」などで、特に面白いのは梅原氏との対談「皇位を賭けた古代の大争乱―壬申の乱」である。