昨年、孫正義率いるヤフーの大がかりな、世界を舞台にした節税が国税当局から摘発されたが、彼は裁判で勝った。今度は新たな手口でユニバーサルミュージックに国税局から巨額の追徴課税があったが、このほど東京高裁で東京国税局の課税は退けられた。前回のヤフー事件より、複雑で、なお高度化している。節税のため設立した子会社の国もフランス、オランダ、イギリスなど、多国に渡っている。
ヤフー事件の時も私はマスコミから引っ張り出されコメントを書いたが、今回は断る。断る理由の一つに、この節税スキームは一流の国際コンサルタント会社が仕組んだもので、手法は一流だが、残念ながら「超」一流ではない。国税局が最高裁判所に控訴すれば結果がわからないからだ。
この事件はサマリーにすると、設立したフランスの子会社から866億円を借り入れ、その支払利息を損金に落としていた。国税局は、わざわざ高い利息を子会社に支払う必要がなかったのではないかということで、この支払利息を否認したので、裁判沙汰になったのである。国税局は否認の根拠に、国際課税では必ずと言っていいほど利用する法律、法人税法第132条①②「同族会社の行為計算の否認」行為であるとしている。
これは、この取引は、一般の経済合理性からするとありえないことで、「このような行為を敢えてするのは税金を安くするためだけでしょう」というもの。他の税法は関係ない、国税局はそう判断したから、そうなんだということで、昔はそれがまかり通っていた。国税当局の「伝家の宝刀」とまで言われた。ところが最近はそうもいかなくなった。理由の原因は私に言わせれば「国際課税」と「組織再編税制」だ。どちらも複雑で、しかも毎年法が変わる。国税当局もついていけないところがある。私もこのブログで随分とわかりやすく解説してきたが、追いつかない。
高裁の判断も、「ユニバーサルミュージックの子会社からの借入は、経済合理性を欠くものであるというべき事情は見当たらない。」として国側敗訴になった。しからば、何故、これほど世界各国に子会社を建てて大がかりな組織再編を行ったのか、理由は何だったのか、あまりにも判事の税知識の無能さは目を覆うものがある。本来追及すべきところを問題視しなかった、この種の取引はアメリカでは確実に否認される。日本だけが、この種の課税に甘いと言われる。この噂が拡散すると、それこそしたたかな海外巨大企業が、その為の子会社を日本に設立するのではないか。
私は日本の最高裁はかなりの税知識と国際性を持っていると思っている。今回の事件は、少なくとも、たかが単なる高度な国際税務である。いわゆる大学生の節税策であって、大学院生や教授のそれではない。欧米ではすでに色あせている、という感じの節税策だ。
☆ 推薦図書 ☆
斉藤徹著 『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』 光文社新書 820円+税
世界では今、独自のアイデアやテクノロジーで、その業界の勢力図を一変させているイノベーション企業が続々と登場している。アメリカのCNBC放送は、そのイノベーション企業上位50社を毎年発表している。「ディスプラター50」、日本語で言えば「破壊者50社」であろうか。
見てみると、家をリフォームしたい人が、内装業者や建築士などと直接つながるサイトを立ち上げたHouzz社、飲食店とマッチングさせるDoorDash社、糖尿病患者を医師とオンライン化したVirta Health社等々を取り上げている。
しかし昨年上場したUberの株価に失望したのをきっかけに、バブル崩壊の予兆がある。従来は、お金や称賛などへの期待が最大のエネルギーだったが、今は「幸せな体験」「優しい気持ち」などを心理的エネルギーとする企業家が増えてきた。物質的な価値を超えて、人々の幸せを追及する新しい事業創造を「ハッピーイノベーション」という。Teach For Americaという会社がある。この会社はアメリカで超一流の大学を卒業した優秀な人たちを、教育機会に恵まれない地域の学校に講師として赴任させるプログラムを実施している。この活動はGAFAのように大きな利益を生み出すのではない。しかし、この会社は全米の学生の就職先ランキングでアップルやグーグルを押さえて1位を獲得したことがある。