アメリカのサラリーマンは、毎年自分で確定申告書(Tax Return)をIRSに提出しないといけない。
会社からの給与収入から、交通費や車の維持費などの必要経費を差し引き、そして扶養控除や寄付金控除などの所得控除を自ら計算して、所得税額や地方税額も申告納付する。つまり自主申告納税が基本だ。日本もアメリカと同様、個人は自主申告納税制度だが、自主申告納税を行っているサラリーマンは一部を除いて、先ずいない。何故か? これはアメリカにない制度が日本の会社にある。「年末調整」だ。勝手に会社が社員の納めるべき税金を計算してくれて、「はい、あなたの1年間の所得税、住民税は、これですよ」で完了する。それでは給与を得るためにかかった必要経費は、どう計算してくれたのか。それは日本独特の「給与所得控除額」という表があって、いくらの給与収入があると必要経費はいくらです、と書いてある。例えば年間給与収入が800万円のサラリーマンだと必要経費は200万円となっている。ただ所得税法では表の必要経費を上回る必要経費があるものは実費で確定申告してくれてもよいとしているが、その際は詳細な記帳をしなければならないのと、現実問題として、そんな手間のかかることをしているサラリーマンなど日本にいない。800万円の収入を得るのに実際200万円も必要経費が掛かるわけがないと思っている。同僚の付き合いや、冠婚葬祭、単身赴任のための会社負担外の交通費、自前のパソコン代、英会話教室、本代などを合わせても(特定支出という)は200万円には届かないであろう。
その結果、日本のサラリーマンは自主申告ではなく、賦課決定税額に慣れているので、果たして自分は1年間に所得税や住民税をいくら払っているのかも知らない。従ってアメリカと違って、政治の税金無駄遣いに対しての関心は極めて薄くなる。まあ、国の思うつぼかもしれないが。
ところが、新型コロナウイルスのせいでリモート、在宅勤務が日常化した。
在宅勤務を命じられたことに伴い職務の遂行に直接必要なものとして、インターネット上に掲載されている優良記事の購入費が発生。このほど国税庁の公表によると「一般的に不特定多数の者に販売されることを目的として発行されるものは、職務に関する図書費となることから、その額が会社により証明を受けたものが特定支出となる」また「勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な交通費で会社が認めたもの」も追加された。いずれにしてもアメリカと異なり、勤務先が認めなければ必要経費とならないが、国税庁がコロナで公表したサラリーマンの必要経費、これでは、表にある「給与所得控除」に依った方がましである。あくまでもサラリーマンの自主申告を認めたがらない国税庁、政府。理由は税務職員の煩雑さ、だけではあるまい。
☆ 推薦図書 ☆
曾野綾子著 「続 夫の後始末」 講談社 909円+税
著者は89歳、紹介するまでもないが、亡き夫は三浦朱門氏である。この年で、よく文章にリズム感があるのには感心する。この本は、いたるところで飼い猫2匹が登場し、猫生と人生を語る。しかし私にとって別な意味で、この本は参考になった。原稿を書く者にとっての心得事である。著者が言うには、作家は鵜飼の鵜だ。魚を取ってくる鵜は観衆の喝さいを浴びるが、鵜の頸部の下方には首結いが縛ってあって、どれだけ採っても、胃には魚が入らないようになっている。作家が作品を完成させるには編集者の支えがいる。鵜匠は鵜の健康状態や、やる気を計っている。鵜匠の役目をする編集者は「おだてたり、すかしたりして」作家に作品を書かせる。総じて鵜は怠け者だ。だから酒を飲ませたり、ややオーバーにおだてたり、時には麻雀の相手をしたりする方が、原稿が早く完成する。書くのは作家だが、本を創るのは編集者である。小説家は人生を切り取って見せることはできるが、その源泉のエネルギーの無言の存在に気づく者は意外と少ない。本当にそうであると思う。
推薦図書の真意とずれたが、著者のタイトルは「夫の後始末」だが、要は、猫も人間も一生はそう変わらない、ただ人間は老いたことを自覚できるというくらいかと。