Wall Street Journalによると、昨年12月にBob Dylanが彼の作詞作曲した音楽目録一式を3-4億ドル(300億円-400億円)で売却したとあった。思うと最近Neil Youngが音楽目録の50%を1.5憶ドル(160億円)、 Stevie Nicksが音楽目録の 80%を1億ドル(110億円)で売却している。彼らは日本でいう団塊の世代で、70歳代だ。相続税対策を兼ねた財産整理であることは、ほぼ間違いない。
アメリカでは、相続税申告は死後9カ月以内に行わなければならないが、このような著作権を正当に評価し、かつ売却することを9カ月以内に行うことは至難の業なので、生きているうちに現金化しておくことは、遺族のためには賢明な措置である。特に最近は音楽の著作権料が上昇しており、アメリカでは著作権の評価額は、通常毎年の著作権料収入 の10-20倍と評価されている。
また、ストリーミング、ライセンシング、その他使用権の収入に対する最高税率が37%であるのに対し、売却の際の課税率は20%と低い。このような低い訳は、2006年にカントリーミュージック業界の働きかけで、アメリカ議会は、自分で作詞作曲した音楽を売却する場合の課税率は20%とするという、特別な課税条項を税法に追加したことに起因する。ではなぜ今のタイミングで音楽著作権の売却が、あちこちで盛んにおこなわれているのか。理由はシンプルだ、トランプが負けたからである。さらに言えば議会で民主党が過半数を取り戻したこともある。
WashingtonPostやFinancialTimesの論説を末までもなく、バイデン大統領は富裕者層に対する増税を図ろうとしている。年収100万ドル(1億円)以上の納税者にはキャピタルゲイン課税20%を廃止し、通常の所得税最高税率39.6%をかけることを検討しだした。前回の選挙で民主党が上院の過半数を占めている現在、この税率引き上げが現実味を帯びてきたのだ。また、現在の税法では死後の財産については取得価額が市場価値に自動的に引き上げあれるが、バイデン大統領はこれを廃止し、日本に見習って、富裕層に対してはあたかも死亡時に売却が行われたと見做す、つまり含み益にたいして、課税をするという提案もなされた。
ただ、税金について、アメリカは日本と違い、連邦税(国税)だけではなく州税(地方税)にも注意を払わなければならない。Bob Dylanは長い間カリフォルニア州の居住者だったが、今はカリフォルニアにはいない。不明だ。カリフォルニア州の最高税率は13.3%(ゼロの州もある)と高いため、他の富裕層と同じく、他州へ引っ越している可能性がある。
しかし節税対策に高額なコンサル料を払うつもりであるなら、最近の節税策の一つとして、税率の高いカリフォルニア州に居住しながら、州税のないネバダ州等でIncomplete non-grantor trust なるトラストを作成し、著作権を信託する方法もあるといわれている。ただし、これを行うには高度な知識が必要で弁護士料も相当なものになる。
これは買い手にとっても法人である場合には税率が21%で済むので、節税になる。州税のないデラウエア州や低税率国のシンガポールやルクセンブルグの会社が購入すれば更に節税になる。また購入した著作権物は10-15年で減価償却出来る為、著作権料に対し節税効果が増すということで売手及び買手、双方にとってメリットがあると言える。アメリカは節税策も金(カネ)次第なのであろう。
☆ 推薦図書。
新井平伊著 「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」 文春新書 800円+税
身体の寿命は延びたのに、脳はそれに追いついていない。認知症の完全な予防は出来ないが、なるべく発症しないようにすることは可能だ。今からできる18の方法で、脳の健康寿命を延ばすことができると、している。2019年では平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳と過去最高を記録したが、寿命が伸び続けたのは医療の進歩だ。最も多きいのは①感染症の克服、いまはコロナだが、かつては天然痘、やペストであった②血管が関連する病気の治療が進んだこと、なかでも糖尿病。脂質異常症、高血圧などの予防医学が進んだこと➂癌の治療が進んだこと。では脳の寿命はどうなのか、身体に比べると延びていない。アンバランスである。2025年には高齢者の20%にあたる730万人が認知症になると厚生労働省が公表している。この本は、体の寿命を延ばせるごとく、こうすれば脳の寿命を延ばせるというノウハウが満載。簡単にまとめると、脳に効く薬など存在しない。脳にとって何よりも大事なのは血管、血管の年齢は脳の年齢に直結する、従って生活習慣病が大敵、その次は、何かに取り組もうとする「意欲」こそが、脳の機能を維持する最大の秘訣だと言い切っている。つまり死ぬまで働いている人に認知症がないと。