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マイケルジャクソンの相続税評価の裁判、米IRS敗訴

日本で相続税の申告をするにあたって、亡くなった人の財産の額を計算するのに、その財産を時価で評価しなければならない(相続税法第22条)預金や現金はわかりやすいが、不動産や非上場株式など、時価はわからない。そこで国税庁は「財産評価基本通達」なるものを発遣し、土地は路線価だとか、家は固定資産税評価額で評価したのが時価であるとか、随分勝手な論理で納税者を縛り付けている。路線価など日本中の道という道に付けている。何十年も土地取引がない地域にも路線価がある。ただただ相続税・贈与税のためだけに付けている。世界中、どこを見渡しても路線価を付している国などない。時価は国が定めるものではないからだ。                                        今日のブログは「財産評価基本通達」のないアメリカでの話で、国税庁(IRS)と申告者との財産評価をめぐっての裁判で、日本ではない、アメリカの財産評価が主題である。
2009年にマイケルジャクソン(MJ)が死亡してから早くも12年近くになるが、つい最近財産評価に関わる裁判が終った。MJのヒットアルバムにBadというのがあるが、今回の裁判の結果、IRSにとっては、Badを超え、残念乍らReally Really Badという結果に終ったと(笑)。    もともとブログでは、IRSには資金力も人材もなく疲弊していると伝えているが、今回その現状が図らずも露呈してしまった。
以下、記述で改めて解説しておくと、アメリカでは相続税の申告を相続人が行わない、裁判所が選任した遺産管理人、執行人が死後9か月以内に提出する。従って、評価も、執行人の評価、IRSの評価、MJ側の評価、そして裁判所の評価、と別れるので注意して読んでほしい。
今回の裁判の論点は次の3点に絞られていた。(1)MJの肖像権の財産評価、(2)MJが保有するSONY/ATVの持分の財産評価、(3)MJが保有する(MJ自身も含めた)ミュージシャンの著作権をまとめた Mijacの財産評価。裁判長は、財産評価は、死亡時の財産の評価であり、死亡後現在の財産を評価するものではないと述べている(日本も全く同じである)。MJは当時、ツアーを長年しておらず、子供の性的虐待による裁判(勝利はしたものの。)も含めたネガティヴな報道によりその名声は地に落ちていた。ところが、死亡後MJのチームは彼の名誉挽回に勤め、ブランドイメージを大きく改善させ、死後11年たち現在ではSpotify上ではポピュラーアーティストとして93位まで上昇しているのだ。
まず、MJの肖像権の評価であるが、申告書ではたったの$2,106(21万円)、IRSの税務調査での評価額は$434,261,895(450億円)、MJ側の専門家の評価額は$3,078,000(3億1000万円)IRS $161,307,045(170億円)、に対して、裁判所は$4,153,912(4億2000万円)と言い渡した。裁判所が下したIRSの評価額との差額は、何と$430,107,983(446億円)、MJ専門家チームとの差額は約100万ドル(1億円)ということで、肖像権の評価がいかに難しいかがわかる。弁護士の腕にかかっている。
SONY/ATVの持分だが、元々はMJがビートルズの楽曲の著作権を所有していたATVの持分権を取得し、その後SONYとジョイントベンチャーを開始しSONY/ATVとったが、その後EMIを取得し、現在ではSONY Music Publishing となっている。この評価額だが、申告書ではゼロと記載している。IRSの税務調査による評価額は$469,005,086(500億円)、 IRSの専門家は $206,295,934(220億円)、MJの専門家はゼロ、そして裁判所の判決もゼロと評価している。これは、MJが生前金欠に陥り、彼の豪華極まるライフスタイルを維持する為に出来る限りの現金を絞り取り、SONYは今後一銭も払う義務が無い所まで悪化しており、裁判所もMJ側に寄り添った形である。
最後にMijacの評価額だが、申告では$2,207,351(240億円)、MJ側の専門家は $2,267,316(250億円)、IRSの税務調査では $58,478,593(60億円)、IRSの専門家は$114,263,615(120億円)、裁判所の判決は$107,313,561(110億円)と評価しIRS側に歩み寄った。Mijac は元々MJの他に、レイチャールズ、エルビスプレスリー、アレサフランクリン等多くの有名アーティストの著作権を所有しており、かなり高く評価されたようだ。肖像権を評価する訴訟については今回が初めての判決だったわけだが、これだけ評価額に差が出るという意味では、評価の難しさがわかる。IRSはMJ側の過小評価に対しペナルティを求めていたが、裁判所に却下されている。今後はIRSもしくはMJ側が控訴することも考えられ、まだまだ予断が許せない。それにしても、日本は国税庁が作った「財産評価基本通達」(法令ではない)を御旗のごとく振り上げ、何でもそれで評価する。非上場会社の株式評価に至っては、類似業種比準価額や純資産価額など、時価とは程遠い尺度で強制的に評価する。家などは市町村の評価した固定資産税評価で行う。家の中に何千万円のシャンデリアを吊り下げられていようと、評価はしない、マニュアルに無いからだ。従ってMJの肖像権など論外である。評価はゼロ。日本は、お上が、価値があると認めたものしか、評価、課税しないのである。デジタル社会の今日、国境を超えた財産や、特にビットコイン等になると、今でも手に負えなくなっているではないか。

☆ 推薦図書。
太田康夫著 「日本化におびえる世界  ポストコロナの経済の罠」 日経BP 2200円+税
平成以降、経済発展がない日本、GDPなど次々新興国に追い抜かれ、今や富める国ではなくなった。G7でも下から2番目、この本は、世界は今、「日本化」しつつある!コロナ禍によって、景気後退、財政悪化など、日本が長い間陥っている状況が世界に広がりつつある。2020年の欧米諸国のテーマは「日本化」、つまり巨額の財政赤字を抱え、ゼロ金利と量的緩和で、かろうじて経済を維持する。欧米もコロナ対策の景気刺激策などで、財政が大幅に悪化、将来不安から出生率が減り、少子高齢化が進む恐れがある。欧米諸国の心配は、日本の二の舞に陥いることである。GDPで見ると日本は2002年は4.1兆ドルで、2012年には6.2兆ドルまで増加したが2019年には5兆ドルに落ち、1995年の水準になった。4半世紀前の水準に戻ったのである。1世帯当たりの平均所得、2002年は589万円だのが2017年には551万円に。国民は間違いなく貧しくなっている。今回のコロナ禍で米国は量的緩和を再開した。景気後退時には量的緩和、戻れば量的緩和を解除、の繰り返しだ。一方日本は異次元緩和を危機的対策と位置づけ、何年も、今も量的緩和を続けているのである。そこにコロナ禍が襲い掛かり、さらに危機対策を迫られることになった。もう日銀の打つては、ほとんど限られる。ポストコロナで金融システムや経済は持つのだろうか?

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