世界的に著名な光学機器「HOYA」(東証一部)の鈴木哲夫元社長の相続人が東京国税局の税務調査を受けた。結果90億円に上る課税漏れがあったとされた。鈴木氏の過去の大きな名誉が傷つけられた思いは、鈴木氏とともに会社の発展に努力した役員、社員には多かろう。なぜ、マスメディアで脱税呼ばわりされ、故人の顔に泥を塗るような事態になったのか。東京国税局の調査を受け、争う事もなく、即座に修正申告をしたという事は、「東京国税局のご指摘はごもっともです。私どもが悪うございました、すぐにお支払いいたします。」と相続人が意思表示したのだ、脱税する意図はなく、ただ少しでも相続税が安くなるならと、節税策の提案に乗った。こうなった原因は、ひとこと「アホな、能力不足の税理士を頼った相続人」に責任がある。なぜ程度の低い税理士の節税スキームに乗ったのかは知らない。普通程度の税理士ならこのような節税スキームは提案しなかっただろう。
鈴木哲夫元社長は90歳で亡くなった。その前年、氏が保有するHOYA株時価150億円分を、現物出資しSIN社を作った。(多分鈴木氏本人は知らなかったであろう)そしてSIN社は、その所有するHOYA株全株を完全子会社TYH社に寄付した。従って、鈴木哲夫元社長はHOYA株に替って、すでにHOYA株が存在しないSIN社の株を持つことになったのである。そして氏は亡くなった。遺産はHOYA株ではなくSIN社の株であるSIN社は非上場会社である。非上場会社の株式の相続税評価は「類似業種比準価額」や「純資産価額」を使って行われる。つまり国税庁が公表している「財産評価基本通達」に沿って行われる。そうして相続人が算定した価額は、わずか20億円。死亡時は110億円のHOYA株だが、この20億円で申告した。国税当局は「財産評価基本通達」に書いてある第6項「この評価通達で計算するのは不適当である場合は、これによらない」旨を記している。今回の差額追徴課税90億円は国税当局の伝家の宝刀である、第6項を抜いたのである。このような事件は、何も珍しいことではない、相続人が次々と子会社を作り「上場会社株式」を転々とさせて、株式評価額を下げていく、国税当局はこの手法を「株転がし」と呼んでいるが、最近でもこれで脱税摘発を受けた有名人は多い。トステム(住生活)の潮田氏の110億円、キーエンス創業一族の1500億円、この手法は、極めて古典的で、もともと、この「株転がし」を考案したのは西部の堤氏だといわれている。彼はもっとも、架空株主まで創作して、その結果、息子の堤清二氏が社会的指弾を受けた。
しかしこの「株転がし」は全て否認されているかと言うと、そうではない。この手法で、立派に節税対策を成功させている事例は多い。成功と失敗の分水嶺はどこかは、ここでは書かないが、多額の節税対策のキーポイントは個人、法人を問わず税理士が握っている。その優秀な税理士を見極めるのも相続人の能力か?
☆ 推薦図書。
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AIが主導する未来はユートピアかディストピアか?この本はマイクロソフトCTO(チーフ テクノロジオフィサー)がAIと人との関わりについて熱く語った未来社会である。AIは世界中で語られていて、今後AIを抜きに世の中は動いてゆかない。それどころか人間が作り出したものの中で最も強力なツールであり、世界を一変させた「電気」の発明と同じく、他のテクノロジーの土台となるプラットフォーム技術である上に、自らを糧に自らを改善していく「フィードバックグループ」を持つからだ。
AIと雇用の問題はいつも暗い。絶えず言われるのは、例えば銀行の窓口係や農家は先進技術に仕事を奪われたら、どう働いて行けばいいのかなど。現実世界は複雑でAIが人間の複雑さで対峙しなければならない場面が増えるほど、自動化技術の弱点が顔を出しやすくなる。人間なら子供でもできることが、AIにとっては無理難題なことも多くある。つまり、ほとんどのビジネスでは、AIが人間に取って代わるよりも、人間をサポートするものになる。そして人間はもっと楽しく、価値の高い仕事に使える時間が増える。と、なるほど、もっともな理論である。