年間110万円まで課税されない「暦年贈与」制度は長年親しまれてきたが、早ければ来年、廃止されることになりそうである。財務省は「諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、意図的な税負担の回避を防止されるような工夫が講じられている。諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、格差の固定化の防止等に留意しつつ相続・贈与税の制度を改革」するとしている。
アメリカでは贈与税(Gift Tax)遺産税(Estate Tax)は統一財産移転税制(United Transfer Tax System)を用いて行われ、税率も基礎控除も同一である。基礎控除は2021年は1億1700万ドル(13億円)であり贈与税も相続税も13億円まで税金がかからない。なんとも日本の富裕層にとっては羨ましい限りである。日本の基礎控除4800万円は世界的に見ても異常に低い、富裕層いじめといわれる。アメリカでも年間基礎控除は1万5000ドル(170万円)夫婦で3万ドルあり、毎年行うと1億1700万ドルに上乗せするので得になる。しかし生前贈与した財産は相続時に、遡って合算されるので、生前贈与をしても、しなくても同じだという考え方はデフレ社会日本だけであり、他の国は毎年インフレになっているので、生前贈与したほうが有利なのは常識である。
日本の贈与税制度は、暦年贈与(基礎控除110万円)と相続時精算課税制度とがあり、暦年贈与は直系尊属からの贈与と、それ以外からの贈与とでは、税率が異なる。相続時精算課税制度は一律20%課税だが、アメリカのように相続が発生すると生前贈与分まで合算される。GDPの上がらない国、日本では相続時精算課税制度を使った不動産の贈与では、後悔している人の方がはるかに多い。このように日本では①直系存続からの贈与の税率②それ以外からの贈与の税率➂相続時精算課税制度の税率④相続税率と4つの税率があるのに対してアメリカは1本だけだ。日本もアメリカ並みに1本化したい旨の公表だが、平成27年の相続税の課税強化以来、今や東京では死亡6人に一人の割合で相続税がかかっている。このため生前贈与して、少しでも相続税負担を少なくしようとする人々も多い。当然である。ところが財務省は「多くの資産を持つ人ほど生前贈与して対策をするが、今や相続税を支払うのが当たり前になっている時代にあって、親の財産を生前に渡すか死後に渡すかで、税金に差が出るのはあってはならない」という考え。このため110万円の毎年の基礎控除をフルに使って相続税を減らす行為はけしからんとというわけだ。そういうことで生命保険を使った節税の防止やリース取引の規制を行ったが、そのうちアパートを建てて節税も何らかの規制が入るであろう。金持ちがそんなに憎いのかというわけだ。
☆ 推薦図書。
宮坂昌之 定岡恵 著 「免疫と病の科学」 講談社 1100円+税
最新免疫学が「万病のもと」の正体を突き止めたというタイトルである。この本は免疫学で著名な大阪大学教授が娘との共著である。一過性で終わるはずの炎症反応が、だらだらと続く「慢性炎症」 最新の免疫学の研究で、この「慢性炎症」が、「がん」「肥満・糖尿病」「脂質異常症」「心筋梗塞」「肝炎・肝硬変」「関節リウマチ」「認知症」「うつ病」など現代人を悩ませる病気の大半にかかわる「万病のもと」であることがわかってきた。この本は病気のメカニズムだけでなく、その治療法や具体的な医薬品名などを記述しているほか。「慢性炎症は予防できるか」では日ごろの生活習慣での注意事項を書いているが、この本を買って、読み終えるまで、医学的知識に乏しい私にとっては、かなりのエネルギーを費やしたが、ためになる本ではある。