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FBAR罰金判決とトランプ前大統領の影響

FBARとはForeign Bank and Financial Accountsの略だが、米国市民権者、居住者、グリーンカードホルダー、法人、パートナシップ、LLC、トラストで米国外にある銀行を含めた金融口座の残高がその年の一度でも1万ドルを超えた場合には全ての口座を開示する義務があり、この申告を怠ると罰金が課される。この申告漏れが意図的でない場合は1万ドル(110万円)の罰金となり、意図的な場合は口座残高の50%までの罰金となる。
ここ数年の裁判では、この罰金が口座毎なのか、それとも申告毎なのかということで議論があったが、今年3月にカリフォルニア州を管轄する連邦第9巡回区控訴裁判所では口座毎ではなく申告毎であるという判決があった。ところが、昨月テキサス、ルイジアナ、ミシシッピー州を管轄する連邦第5巡回区控訴裁判所では、申告毎ではなく、口座毎であるという判決を下した。この原告は海外に住んでいた米国市民権者で、米国に戻った際、この海外金融口座開示をしていなかったことに気づき、2007年から2011年までの5年間のFBARの申告をしたが、時すでに遅しで、判決での罰金は5年間の申告の5万ドル(550万円)ではなく口座毎の合計で2百万ドル(2億2千万円)となったのである。
控訴審判決では様々な税法上の論点を議論しているが、その一つに意図的でないにしても開示をしていないのは同じことで、意図的な場合には口座毎に残高の50%まで罰金を科せることが出来るようになっており、意図的でないにしても口座毎に罰金を科すべきだとした。ここで、意図的ではないのに2百万ドルの罰金というのはいかにも大きすぎるが、この連邦第5巡回区控訴裁判所は非常に保守的で、有名ないわくつきの控訴裁判所だという噂である。
アメリカには13の連邦巡回区控訴裁判所があり、ワシントンDCと11の巡回区は区域で分かれており、更に全米の特別ケースを受けるFederal Circuitがある。最終決定は最高裁判所にあるわけだが、毎年7000-8000件の内、3%未満のケースしか最高裁で取り上げられないので、ほとんどの場合連邦巡回区控訴裁判所の判決が最終となる。これは日本の最高裁判所と同じだ。この第5巡回区控訴裁判所だが、17人の裁判官の内12人は共和党大統領により任命を受けており、内6名がトランプにより任命されている。これらの裁判官の任期はライフタイムであり、一度任命されれば大統領の任期よりはるかに長く職に就くことになる。トランプが任命した裁判官は、レーガンやブッシュ親子に任命された裁判官より遥かに保守色が強く、最近厳しい中絶法を合法としたり、バイデンのコロナ対策を凍結したりと異常なまでの判決を出すことで有名である。但し、余にも保守色の強い第5巡回区控訴裁判所だが、過半数を保守で固めている最高裁でさえ、あまりにも判決が保守すぎるということで、今迄7件の控訴審判決の内5件を否決した。笑える話である。
トランプは自分の任期中の4年間で200人以上の連邦裁判官の任命をした。この内54人の控訴裁判所の裁判官であり、オバマが8年間で55人の任命をしたのに比べどれだけ多くの任命をしたかがわかる。現在バイデン大統領は急速に連邦裁判官の任命を新たに行っているが、何せリタイアするか死ぬかでしか空席が出ないので、限度がある。
保守派の弁護士ははわざわざこの第5巡回区控訴裁判所で裁判を起こせないかいつも試案しているようだが、裁判にまでもトランプの影響が出ている。今回、明らかに意図的でないミスで2百万ドルもの罰金を払うのは酷するぎるわけだが、今回控訴裁判所での判決が割れたことで最高裁で争われることは確実であり、どのような結論が出るか注視したい。(このようなことは、日本のメディは一切報道しないが、いかがなものか)

☆ 推薦図書。
大鹿靖明著 「金融庁戦記」 講談社 1800円+税
副題は企業監視官・佐々木清隆の事件簿。この本は東大法学部卒、大蔵官僚であった佐々木氏の異色の仕事ぶりを書いたものである。現職当時、カネボウ、オリンパス、ライブドア、村上ファンド、AU投資顧問など数々の逮捕者を出した「平成の金融事件」のすべてに関与したのである。一節を紹介すると、「佐々木のもとに、欧州系金融機関で働く知り合いからクレディの内部資料が提供された。これは落ちていた資料を拾ったことにしておいてくださいと、知り合いが言ったがスノーフェスティバルと英語で書かれてあったので、札幌雪祭り、つまり北海道雪祭り、北海道拓殖銀行のこと。ドラマを見るような銀行、証券の悪事、スキャンダルをもとに数々の経済犯をあぶりだした。彼は大蔵省金融検査部課長補佐などの職をはじめ検査や調査、審査の部署が多く、彼の直属の上司は今度SBIがTOBをかけた新生銀行の会長に予定されている元金融庁長官の五味廣文氏である。実名が飛び交うこの書は、中央官庁に興味があるものにとっては、ノンフィクションで一気に読んでしまう。

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