積水ハウスや大和ハウスなどをはじめハウスメーカーの営業マンは、「更地で持っていると亡くなった時の相続税が大変ですよ。アパートを建てれば相続税が20%ぐらいになりますよ」というような謳い文句で地主を説得するのは珍しいことではない。何しろ相続税の最高税率は55%だ。相続時の不動産の評価は、相続税法22条に「時価」ですると言ってはいるが、現実は国税庁が定める「財産評価基本通達」で行う。すなわち土地は「路線価」建物は「固定資産税評価額」であるが、しかし賃貸ものであれば「借地権割合」と「借家権割合」を掛け合わすので、実際の時価の20から30%になる。これがアパートを建てて税対策の基本であり、高い相続税を背景に、半世紀余り、これでハウスメーカーの営業政策は成り立っていたのである。
ところが過日、国税当局は、ある事案で、これによらず不動産鑑定士の評価でアパートの評価を行い、納税者が財産評価基本通達により行った相続税申告を否認したのである。国税当局は、明らかに節税対策のためにしたのであるから認められないと。これに対して納税者は国が決めた「財産評価基本通達」に基づいて評価をしたのだからと争った。このほど最高裁第三小法廷は国の処分は適法だと納税者の上告を棄却したのである。理由には「本件では相続税申告の負担軽減を意図して不動産の購入が行われ、結果、他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じ、租税負担の公平に反する」とした。つまり節税対策を意図した行為は脱税ですよ、としたが、税法の第何条に違反したのかは、なにもない。税務署の判断で、これは節税対策でしたのだから否認する。という事で、中国やロシアでもない、日本ははたして法治国家かと思う。それでは何十万件と言われる相続税対策で、現在存するアパートはどうなるのか。看過しがたい程度の節税とはどれくらいの節税をしているものを言うのか、まったく最高裁は基準を示していない。現実に建設業界も税対策で経済効果も出いるので、それである意味社会も潤っている。納税者は税法に依って納税を義務付けられているが、これからは税務署の判断によって課税されるということである。欧米諸国では考えられない。かつてサラ金などの貸金業者が、金利で最高裁の判決を受け結果、過払い金訴訟で多くの貸金業者が廃業、倒産を余儀なくされた。先進諸国で、これほど相続税負担が重い国はない。基礎控除が4800万円の国と、アメリカの30億円の相違、親が苦労して築いた財産を少しでも多く、子や孫に承継させたい親心、先祖代々の土地を譲りたいなどの人々。これら、今回の判決は、少ししか残されていない相続税対策の抜け穴を封じる国。声を上げる国会議員はいないのか、これはかっして金持ち優遇ではない。
☆ 推薦図書。
和田秀樹著 「70歳が老化の分かれ道」 詩想社 1000円+税
著者はご存じ東大医学部教授で精神科医の権威。日本の人口構成の最大を占める団塊の世代が70歳代である。70代の10年間は、人生における「最後の活動期」である。この時期の過ごし方が、その後の、人がいかに老いてゆくかを決めるようになった。無自覚に過ごしていれば老いる。70代に努力することによって、要介護になる時期をできるだけ遅らせ、晩年も若々しさを保つことができる。書では、何事においても「引退」はしない。「運転免許証は返納してはいけない」など、運動や医療への関わり方などきめ細かく解説している。なかでも生きる意欲が強調されている。「意欲の低下」が最大の老化へのポイントなる。団塊世代の者にとっては必読である。