国税庁は富裕層の節税スキームの封じ込めに躍起である。それほど富裕層は憎いのかと思われる。富裕層あっての日本だと私は思っている。彼らは消費をし、会社を大きくし、雇用にも貢献、文化にも発展した。しかし国は、貧富の格差があるとし、富裕層には所得税も相続税も55%の税率を課し、稼いだ本人より国が持っていく方が多い国になった。
昨年まで富裕層の間で密かにはやる節税方法が2つあった。一つはコインランドリーである。コインランドリーの開業は数千万円かかるが、取得した洗濯機は即時償却できるのである。つまり取得した年に全額経費に落とせるのである。これは大きい、何件もコインランドリーを持っている者もいるが、儲けなくっても、税金が助かることを思えば実利に叶う。もう一つはビットコインなどを生産する機械、マイニングマシンである。これは1台300万円程度であるが即時償却ができる。何台も買うと億単位の節税ができることになる。
これらの即時償却の根拠条文は「中小企業経営強化税制」にある。ところが令和5年度税制改正でこの「中小企業経営強化税制」の適用対象からコインランドリーとマイニングマシンがはずされた。今年令和5年4月1日から適用できなくなった。この節税スキームは完全に封じ込められたのである。今まではよかったので、去年まで、この節税スキームをした人は助かった。と思うのは早計で、5年前まで遡って否認される恐れが出てきた。なぜか、減価償却は、あくまで「事業の用に供した」ときからできるのである。機械でも器具でも事業の用に供さないと減価償却が出来ないのは、会計・税務のイロハである。国税庁の方針では、「中小企業経営強化税制」の経営力向上計画の認定を受けたマイニングマシンであっても、買った本人が現物を見たこともなければ、触ったこともない。つまりマイニングマシンの販売代理店にカネを払っただけで、販売代理店に業務委託しただけという事なので「事業の用に供した」とは言えないことからマイニングマシンに係る所得は事業所得ではなく「雑所得」となる。そうなれば即時償却の結果赤字になっても損益通算出来ず、赤字の3年繰越も出来ないので、何の節税にもならない、これからの税務調査でこの種の追徴課税が多く出るであろう。
☆ 推薦図書。
ギュスターヴ・ル・ボン著 櫻井成夫訳 「群集心理」 講談社 1122円
今の最高権力者、それは「群衆」である。わずか100年前までは、国の政策は帝王たちの独占的な権力が握っていた。だが今は君主の意向は重きをなさないで、群衆の声が国に取るべき行動を促す。国家の運命が決定されるのはもはや君主の意見によるのではなくて、群衆の意見による。しかし群衆は本能のままに動き、どんな感情も行為も感染しやすい。群衆中の個人は、自分の行為を意識しなくなり、ある暗示を受けると、性急に何らかの行為を遂行しようとする。同じ言葉は、異なる社会層では異なる意味を持つ。民主主義という言葉はラテン系の群集心理では、国家の意志の前には個人の意思は消滅することを意味している。従って国家が国民に対して指導や集中化という任務を負わされる。これに対しアングロサクソン人にあっては、同じ民主主義という言葉であっても、個人の強烈な伸展と、国家の消滅を意味する。民族によって同じ言葉でも意味が違うのである